日本の生産年齢人口(15歳〜64歳)は、2023年の7,479万人から2050年の4,930万人まで減少し、27年間で40%以上減少することが確実視されています。同期間に生産年齢人口が60%以上減少する市町村も多く存在し、それに伴う様々な課題(医療、介護、生活インフラの維持、所得の減少など)が山積していますが、首都圏から地方への移動を促す地方創生の取り組みだけでは課題が解決されるとは思えません。
今回は、人口減少時代の地方の教育の課題に触れ、AIを活用することで地方の教育の課題をどのように解決するのか解説していきます。
地方の教育の課題とは
教師不足の深刻化
2023年に教職員組合が実施した調査によると、公立の小・中・高校において全国で3,000人余りの不足が出ているという結果が出ています。また、4割の地域が1年前よりも教師不足が悪化したと答えています。各地域における子供の教育を支える学校の数を簡単に減らすわけにはいかないので、少子化により子供の数が減ったとは言え、比例して教師の数を減らして良いわけではありません。
教育の質が低下する可能性
教師の数を担保するために、各自治体がペーパーティチャー(免許は持っているが教職の実務経験はない方)向けの採用セミナーを開催するなど採用数を伸ばす動きを行っています。また、現職の教師が教職を辞めないようにメンタルヘルスケアに力を入れていますが、経験が乏しい教師を増やすことや、やる気があまり出ない教師に残ってもらうことは教育の質を低下させることに繋がり兼ねません。
このままでは将来、地方と都市部での教育格差がますます進んでしまい、子供がいる家族の都心部への移動が加速してしまいます。また、地方に住む子供に対して十分な教育を提供できない可能性があり、地方の人材の質が低下することで将来的に地方での所得減少が進んでしまう悪循環に陥ってしまいます。
AIで地方の教育の課題を解決できるのか
地方の教育の課題をあげましたが、AIで本当にこれらの課題を解決できるのでしょうか?
私は解決できると確信しており、特に「教育の質」においては飛躍的に向上できると思っています。
なぜそう言い切れるのか。それは、AIの特性を活かした以下のような教育が可能であり、現時点でどんどん現場利用が進んでいるからです。教育に活用できるAIの特性をそれぞれ見ていきましょう。
個別最適化された教育が可能(アダプティラーニング)
AIの特性の一つに、瞬時にデータ分析を行うことができる点があげられます。生徒に問題を解いてもらった後に解答をAIで分析することで、生徒一人一人の苦手な問題の傾向、学習の進捗具合、現状の理解度などを測ることができ、かつそれらのデータを自動で蓄積していくことが可能になります。そして、一人一人の生徒の理解度に合わせて、現状における最適なテキスト、最適な復習問題をAIで自動で提示することができます。
このような個別最適化された学習方法は「アダプティラーニング」と呼ばれており、日本の学校・塾などの教育の現場で利用が現在進行形でどんどん進んでいます。「atama+(アタマプラス)」、「Qubena(キュビナ)」などが有名で、どちらも日本のスタートアップ企業が運営しているサービスです。
AIを使わない従来の学校教育では、生徒一人一人の理解度を詳細に把握し、それぞれの理解度に合わせたテキストや反復テストを準備することは非常に困難だと思います。特に教師不足がどんどん進むこれからの地方ではなおさらです。このアダプティラーニングは、タブレット端末さえあれば簡単に導入することが可能です。これからの日本の教育を大きく変えていく先端技術だと思います。
ChatGPTを搭載したAIとの英会話学習
オンライン英会話の普及により、地方にいてもネイティブレベルの英語話者と英会話学習をすることが現状でも可能でしたが、それなりに費用がかかることから中高生などに広く利用されている教育ツールにはなっていないのが現状です。
そこで今注目を集めている英語教育は、AIを搭載した英語教育、英会話学習です。AIによる音声認識技術が飛躍的に向上したことにより、発音が不十分な日本人が話す英語であったとしても言葉として認識されるようになりました。このことから、AIとの英会話や英語の発音トレーニングができるようになり、日本の会社が提供しているAIを搭載した英語学習アプリ「スピークバディ」などが登場し注目を集めていました。
このような中、2023年に注目を集めた言語生成AIであるChatGPTによってAIとの自然な会話が可能になりました。このChatGPTの技術を搭載した英会話「Speak(スピーク)」が英会話学習の方法を根底から変える可能性があると注目されています。
Speakにおける英会話学習はフリートークが可能です。どのような話題でも人とコミュニケーションを取っているレベルと同じ精度で英語コミュニケーションが可能です。かつ、AIの自然言語処理技術を活用して会話の中で意味を取り間違って使ってしまった単語や文法を分析してデータとして蓄積させることで、先ほど紹介したアダプティラーニングによって個別最適化された復習が可能になっています。AIの発音認識技術によって発音に対しても細かなフィードバックが行われることから、日本の地方にいながらネイティブレベルの英語力を身につけることが可能になりました。
日本の英語教育は、教師不足になる以前から教師側の英会話能力の欠如、文法・単語に寄りすぎた学習方法など課題がたくさんありました。これらの課題をも解決できるAIによる英語学習は、日本人の英語学習(将来的にはその他の語学学習含めて)を根底から変えていくことができると考えています。
AI教育の未来
AIを活用した教育は、地方の教師不足に対する有効な解決策の一つとして期待されています。AIによる個別最適化学習は、生徒一人ひとりの能力に応じた教育を実現し、教師の負担を大きく軽減する一方で、教育の質を維持、あるいは向上させることが可能です。また、負担が軽減された教師は、生徒のメンタルヘルスに対してのサポートや倫理・道徳など人間社会で生きていく上で重要なことに対しての教育により多くの時間を使うことができるようになります。
一方、このようなAI技術の導入には、プライバシーの保護やデータの安全性など様々な課題も伴います。AI教育の発展と普及には、これらの課題への対応策を講じることが不可欠です。
AI技術の進展により、教育の分野に新たな可能性が開かれています。子供たちの学習方法はこれからも大きく変わり続けるでしょう。AIを活用した教育の普及により、より多くの子供たちが個々の能力に合わせた最適な教育を受けられるようになり、将来地方においても都心部と変わらない教育が受けられることを期待しています。