日本の医師不足の問題についてご存知でしょうか?
日本は人口1,000人あたり約2.4人の医師数となっており、フランス3.2人、ドイツ4.2人と比べて先進国の中でも医師の数が少ない状態になっています。*1
とりわけ地方における医師不足により引き起こされる様々な問題が深刻になっており、医療施設に従事する人口10万対医師数について、東京約330人に比べて、青森県約210人と地域によって数値が大きく異なる状況です。*2
これらの医師数の不足や医師が従事する地域に偏りがあることにより、以下のような様々な課題が生まれています。
医療へのアクセス格差拡大
地方では、医師不足により病院が少なく診療科も限られるため、都市部と比べて医療へのアクセスに大きな格差が生じています。専門医の不足も深刻で、高度な医療が必要な場合は都市部の病院への転院を余儀なくされるケースも少なくありません。必要な時に適切な医療を受けられない状況は、生命に関わる事態に繋がる可能性もあります。
専門人材不足が加速する悪循環
医師不足は医療現場のみならず、地方全体の課題です。医師不足は医療従事者の減少に繋がり、病院の経営悪化や医療サービスの質低下を招きます。その結果、更なる人材流出を招き、地域医療の崩壊に繋がる可能性もあります。医師不足は、地域経済の停滞、地域社会の衰退に繋がる深刻な問題と言えるでしょう。
例えば、日本における死因第一位である悪性新生物(腫瘍)の中でも高い死亡数・死亡率を示している肺がんについて、早期発見と早期治療が重要であり、早期に発見するため胸部X線検査やCT検査が実施されています。しかし、医師の業務逼迫等により1症例にかけられる読影時間は僅かであり、見落としや誤診を防ぐための「二重読影」を実施していない医療施設は3割以上に及ぶとされています。*3
*1引用:医療関連データの国際比較-OECD Health Statistics 2019-
*2引用:厚生労働省 令和4(2022)年 医師・歯科医師・薬剤師統計の概況
*3引用:人間ドック学会「本学会会員施設における低線量CT肺がん検診の実施状況に関する調査報告」https://www.jstage.jst.go.jp/article/ningendock/33/5/33_739/_pdf/-char/ja
そのような中、これらの地方の医療の課題を解決するサービスが生まれています。
エルピクセル株式会社(以下、エルピクセル)は、多様な医療画像を解析し、多忙な医師の診断をサポートする医療画像診断支援AI「EIRL」を開発・提供しており、画像診断を効率化することで専門医不足の課題解決のためのソリューションとなっています。
EIRL(エイル)は、”医師に寄り添う AI として、医師+AI のダブルチェックが当たり前の世の中に”というミッションを掲げたエルピクセル独自の人工知能(AI)アルゴリズムを用いたソフトウェアです。CT、MRI、X 線画像などの医療画像をはじめとする診断に必要なあらゆる情報を解析し、医師が効率的でより正確な診断ができる環境を提供するものです。
胸部X線画像から肺結節に類似した領域の検出においては、医師単独での読影感度45.4%から57.0%に大幅に向上しています。
同様に、脳MRA画像から嚢状動脈瘤に類似した領域の検出においては、医師単独での読影感度68.2%は77.2%に大幅に向上しています。
今回、医療AI開発の最前線を走るエルピクセルのCOO 福田氏に、同社の取り組みやソリューション、今後の展望、そして医療AIの可能性について伺いました。

エルピクセル株式会社 取締役COO 福田 明広
大阪大学大学院 医学系研究科保健学専攻 修士課程修了。診療放射線技師。キヤノン株式会社に入社し、光学・機械学習をベースにした画像処理の要素技術研究に従事。2017年11月に当社にアルゴリズムエンジニアとして入社。その後、プロダクトマネージャーとして複数の製品を企画し製品化、プロダクト本部のゼネラルマネージャー(本部長)として全製品の開発のマネジメントを行い中長期の製品戦略の立案をリード。
医療現場の課題をAIで解決するアプローチは?
──医療AIは、医療現場の問題にどのように貢献できるとお考えでしょうか。
福田 医療現場の問題は、人手不足による医療現場の業務量の増加と、そこから発生する医療の質の低下にあると考えています。
業務量の問題に対しては、医療AIを活用することで業務を効率化できると考えています。また、質の問題に関しても、AIと連携することで質の向上を図ったり、地方においては必ずしも全ての専門家が施設に揃っているわけではないため、医療の質の均一化にも繋がるのではないかと考えています。
──医療現場の問題が明確な中、御社のプロダクトの医療現場への導入状況はいかがですか?
福田 「EIRL」の導入施設数は順調に増えており、現在では日本全国47都道府県すべてに導入いただいています。都市部はもちろん、地方の医療機関様にも広くご利用いただいており、クリニックから大学病院まで、施設の規模や属性も多岐にわたります。
特に地方においては、深刻な人手不足という課題を抱えている医療機関様が少なくありません。従来は、ダブルチェックを外部の医師に依頼するなどして対応されていましたが、コロナ禍の影響もあり、医師の派遣が困難になるケースが増加しています。そのような状況下で、当社のAIを導入いただいた施設様もございます。
人手不足の解消に加え、「AIによる迅速な結果判定で安心感が得られる」という点も評価いただいています。
医療という専門領域においてAIの先駆者になれた秘訣は?

エルピクセルは医療分野出身者が多いことを強みとし、「医師に寄り添う」製品開発を掲げています。医療AI分野の先駆者として、豊富なデータと高い技術力、そして薬事ノウハウを武器に業界をリードする、その強さの秘密を伺いました。
──「医師に寄り添う」製品開発を掲げている理由は何でしょうか。
福田 弊社は、元々東京大学の生物などライフサイエンス領域の画像解析を専門に扱う研究室から始まったということもあり、ライフサイエンスという広い分野で貢献したいという思いがありました。そして、研究室から始まったからこそ、貢献する方法として、できたものを売っていくだけではなく、自分たちで技術を生み出し、それを広めていきたい、新しい価値を創造したいという想いがあります。
私に限らず、医療機器メーカー出身の者や、私と同じように放射線技師の免許を持っている者など、医療分野出身のメンバーが多く揃っているのは、当社の特徴です。だからこそ、「医師に寄り添う」ということを大切に製品開発をしてきました。医療現場に本当に必要なものは何かを常に考えながら、製品を作ってきました。
──医療AIのフロントランナーになれた理由、御社の強みは何でしょうか。
福田 私たちは医療AI分野のフロントランナーとして、製品の企画から許認可取得まで、一連のサイクルを回せる体制を構築しておりまして、これが当社の強みの一つとなっています。
AI開発においては、データ収集が非常に重要となりますが、その点でも1施設、1施設EIRLの導入をお願いし、結構地道な作業ではあるんですが、かなり増えてきて現在数十施設協力いただいています。
また、高い技術力と医療知識を兼ね備えたエンジニアや、豊富な薬事ノウハウを持つメンバーなど、専門性のある優秀な人材が揃っていることも強みです。各プロセスにおいてノウハウや経験を積み重ねてきた結果、その総合力が当社の大きな強みになっていると考えています。
医療AIの未来をどのように創っていく?

エルピクセルは今後、AIの精度向上や業務効率化といった目先の目標に加え、診断支援から創薬支援、治療支援まで、医療全体を網羅するサービスの提供という壮大なビジョンを描いています。今後の展望について伺いました。
──目先の目標と今後のビジョンについて教えてください。
福田 目先の目標としては、AIの精度向上はもちろん、医者の業務全体の効率化にも力を入れていきたいと考えています。医師は画像診断に加え、レポート作成などにも多くの時間を費やしています。そこで、画像診断後のレポート作成を自動化するなど、業務全体の効率化を進めていきたいと考えています。
長期的な視点では、診断だけでなく、治療など、医療全体をカバーするようなサービスを提供していきたいと考えています。その一環として、現在は創薬支援AIの開発にも取り組んでおり、様々な企業様と進めています。また、この取り組みを通して手術の支援AIの開発へと繋がっており、将来的にはこのように医療の分野をさらに広げてサービスを提供していきたいと考えています。
当社は、総合的な製品のラインナップが揃っているところが特徴です。そのため、我々だけではカバーしきれない領域においては、今後は他社との連携を強化していく方針です。特定の領域に特化したAIを開発する企業や、医療AIの開発を得意とするものの医療機器開発の経験が少ない企業などとも連携し、カバー範囲を拡大していき、プラットフォーム化を進めていく予定です。
反対に、他社様のAIプラットフォームに弊社のサービスを導入いただくこともあるかと思います。このように、他社との連携の戦略を進めることで、より多くの医療機関に弊社のサービスを届け、医療現場の課題解決に貢献していきたいと考えています。
──最後に医療AI導入に興味のある医療機関の方に向けたメッセージをお願いします。
福田 医療AIは日々進化を遂げています。既に情報収集された方もいらっしゃるかと思いますが、期間が空けばその情報はすぐに古くなってしまいます。
医療AI導入に興味のある医療機関の方は、ぜひ最新の情報を収集からでも問題ございませんので、導入を検討いただければと思います。
参考情報
- エルピクセル株式会社 HP:https://lpixel.net/
- プレスリリース「医療画像診断支援AI「EIRL」が全国47都道府県の医療機関へ導入」:https://lpixel.net/news/press-release/2024/11165/