胃がんは日本人のがんによる罹患数、死亡数において上位にあり続けています。
その原因としては、胃がんを早期発見することが難しいことが挙げられ、特に地方において内視鏡専門医の数が不足していたり、地域によって医療の質が同一でないことが多くなっています。
本邦では、がんの死亡率減少を目的として、「対策型がん検診」と呼ばれる公共政策として行うがん検診が実施されています。
しかし、対策型胃がん検診の実施は、市町村や医師会などの実施主体の特性に強く依存しており、特に胃内視鏡検査を実施する体制が整っているかどうかが重要です。
内視鏡検査が可能な医療機関や医師の数だけでなく、医師の忙しさや検診予算にも左右されます。
例えば、医療機関があっても医師が忙しい場合や予算が不足している場合、体制は十分であるとはいえません。
また、胃がん検診においては、検査の質を担保するため、医師会が定めるガイドラインによって、内視鏡検査において撮影した画像を、別の医師が見直して病気の見逃しがないかダブルチェックを行うという運用になっています。ダブルチェックを担当する医師は自身の所属する医療機関での診療が終わった後に、地域の医師会館等指定の施設に集められ、何千枚もの画像を確認することが求められるなど、負担は甚大です。
そして、検診フローそのものについても、紙やUSBなどの記録媒体を活用したアナログな運用が残っているため医療現場において多大なる工数がかかってしまっている自治体も多数存在します。
引用:大阪がん循環器病予防センター 「胃がんの罹患率・死亡率の動向と胃 X 線検診の課題」
引用:日本対がん協会 「がんの部位別統計」
引用:J-STAGE 「胃内視鏡検診の現状と課題」
今回、これらの課題を解決するために胃内視鏡検診のデータを二次読影医に共有できるWebサービスである「gastroBASE screening」を展開する株式会社AIメディカルサービス(以下、AIメディカルサービス)の経営企画部門長 金井氏に、同社の取り組みやソリューション、今後の展望などについて伺いました。
※二次読影:画像診断の際に、別の医師が画像データやレポートを確認することで、疾患の見逃しがないか確認することです。

株式会社AIメディカルサービス 経営企画部門長 金井 宏樹氏
一橋大学 大学院にて社会学修士を修了後、三菱総合研究所にて戦略コンサルタントとして経営戦略、海外事業戦略、マーケティング領域にのコンサルティングに従事。その後、飲料メーカーにおける新規事業開発や中期経営計画の策定、楽天株式会社のグループ戦略推進室室長としてグループ全体をリードする戦略立案業務等を行う。
上記を経験後、現在は株式会社AIメディカルサービスの経営企画部門長として、AI医療機器の開発・普及に関する戦略立案などを担当。
内視鏡医療における医師の数と質の課題
──胃がん検診の課題にはどのようなものがあるのでしょうか。
金井 胃がん検診には2つあり、1つはバリウムによる胃X線検査、もう1つは胃カメラによる内視鏡検査です。問題は、バリウムを飲んで放射線で投影する方法では、早期の胃がんは形がはっきりしないため、見つからないことも多いと言われています。
また、各市町村は全て内視鏡検診を行うことができているわけではありません。これは、医師の偏在化*が原因となっています。日本の内視鏡医は、全体としては国際的に多いのですが、都市部にかなり偏っているため、地方では内視鏡医が十分におらず内視鏡検診が導入できないことが結構あります。なので、そもそも内視鏡検診が受けられない地域が存在することが地方の課題となっています。
※偏在化:あるところにだけかたよって存在すること。本文脈においては、医師の数が地方よりも都市部に集中していることを意味しています。
──内視鏡検診の地方における課題はあるのでしょうか。
金井 医療水準が完全に均一化されていないところが課題として挙げられます。つまり、内視鏡検診が十分な医療水準であるのかという問題があります。内視鏡検診は、技量が求められる一方で、内視鏡を専門としているクリニック多くはありません。そのため、内視鏡専門でないクリニックでは、検診における胃の写真がきれいに撮れていないということもよく耳にします。
最後に、地方では交通機関があまり整備されていないという問題もあります。内視鏡検診を行っている自治体は、二次読影を行う指針があります。医師会の中の施設に集まって行うことが多いですが、各医師が自身の所属する医療機関での診療が終わった後にその施設に集まり、何千枚も画像を確認しなければいけないため、医師の負担もかなり高いです。地方において、交通もままならなかったり、雪が降ったりすると、そもそも二次読影ができないということもあります。
胃がん検診のサービス「gastroBASE screening」

同社が提供する「gastroBASE screening」は胃内視鏡検診と二次読影のデータを共有できるWebサービスです。
対策型がん検診に取り組む自治体や医師会、医療機関の課題に向き合い、専用回線・専用PC不要で二次読影がどこでも可能になります。
また、クラウドシステムなので、読影医は読影会場へ集まる必要がなくなり、書面の紛失リスクも軽減されます。検診結果の集計もラクに行うことができる、業務効率化につながる対策型胃内視鏡検診サポートサービスです。

──「gastroBASE screening」にどのような課題を解決できるのでしょうか。
金井 内視鏡の検診を受けた後、検診施設の一次的な結果(画像データとレポート)をクラウドシステムにアップロードして二次読影をおこなう施設や先生に共有します。その後に、二次読影の先生が結果をクラウドに登録し、一次読影の先生に戻します。二次読影の先生の検診結果を参照しながら、患者の最終診断を下す仕組みになっています。これによって、地理的な課題は大枠解決すると考えています。
また、検査の均質化のためにAIの搭載に向けた開発を進めています。主に「判定」に関するAIであり、胃の全体を写真がきちんと撮れているか、写真のブレやボケとかないか、腫瘍性病変(腺腫、早期胃がん)の疑いがある病変が映っているかを判定するものです。これにより、医師の経験のばらつきに対してサポートができます。
──医師や自治体によってシステム化に後ろ向きな場合もあると思います。どのように対応されてらっしゃるのでしょうか。
金井 我々のシステムは、現在の検診運用フローも考慮しています。例えば、自治体によってはデジタル化に対して前向きなところばかりではありません。そういった場合にも対応できるように運用の負担を減らすためにも、本システムに紙でもアップロードできるようにしています。こういったUI/UXの部分も導入する上で気を付けているポイントとなっています。
──システムの導入には医師会主導で進むケースが多いのでしょうか。
金井 自治体の予算で医師会に対して委託をしている場合と、医師会の予算を活用して進めている場合があります。そのため、面と向かってお話するのは、医師会のご担当者様が多いです。ただ、医師会の予算で導入を検討することが難しい場合は、自治体に予算を掛け合います。地域全体のニーズを掴むために自治体にも話をしています。
質の高い医療データを元にしたAIクラウドソリューション
──競合との違い、御社サービスの強みはなんでしょうか。
金井 内視鏡におけるクラウドソリューションは、現在オリンパス株式会社様と富士フイルム株式会社様と弊社の3社しかいないです。その上で弊社のシステムは、Webブラウザからアクセスができ、専用端末が不要であるということが差別化要素になっています。そのため、弊社のサービスはどんな種類のPCやタブレットでも利用することができます。また、AIの搭載に向けた開発を進めていますのでその辺りも強みになってくると思います。
──今後、内視鏡AIへの他社の参入が出てくると思いますか。
金井 弊社の主力事業は、内視鏡検査中に医師の診断を支援する画像診断支援AIシステムですが、内視鏡AI事業への参入障壁は、とても高いと考えています。医療データはWeb上にあるわけではなく、基本的に医療機関に存在しているため、その医療機関からデータをいただくのに、施設ごとにNDAを含む契約を行うプロセスが必要になります。
また、我々の強みは、がん研究会 有明病院様や大阪国際がんセンター様、東大病院様、慶應義塾大学病院様など、消化器内科領域において日本をリードする医療機関を含む国内外140以上の医療機関とのネットワークです。また、内視鏡領域は、大企業がこぞって注力するほどの市場規模はなく、レッドオーシャンになっていないことも現状としてあります。
我々の研究グループは、これまで世界初のピロリ菌の感染有無を判定するAIに関する論文や世界初の胃がん検出AIに関する論文等を含む50本を超える医学論文を発表してきました。このように世界初の論文がフックになり、医療機関との輪が広がり、競争優位になっていることもあります。
※世界初の「胃がん人工知能拾い上げ論文」がGastric Cancerに掲載:https://www.ai-ms.com/news/media_coverages/20180115
世界の患者を救う〜内視鏡AIでがん見逃しをゼロへ〜

──内視鏡AIによって将来目指している世界観はどのようなものでしょうか。
金井 我々は、日本のトップクラスの医療機関からデータを収集し、内視鏡AIの研究開発を行っています。将来的には医師とAIがともに内視鏡検査を行うことで、日本のトップの医師が提供するような医療が誰でも受けられるような世界を目指したいです。例えば、地方にいても都心部の質の高い内視鏡医療が受けられるようになり、それを通じて早期にがんが発見できると思います。そうすれば、救われる命がたくさん増えてくると思うので、我々のミッションである「世界の患者を救う」ことに繋げていければと思います。
内視鏡医療の未来を創るところで、内視鏡検査中に医師の診断を補助する内視鏡画像診断支援AIもすでに提供を開始しておりますし、今後は胃がん検診に向けたソリューションである「gastroBASE screening」へもAIを搭載していきます。地方の課題や地方の内視鏡医療の質の向上に寄与することを目指しておりますので、興味や関心があれば、ぜひお問い合わせをいただければと思います。
参考情報
- 株式会社AIメディカルサービス HP:https://www.ai-ms.com/
- 「gastroBASE screening」サービスページ:https://go.ai-ms.com/gastrobase