AIで空家問題を解決 「横浜市版 すまいの終活ナビが目指す未来」

日本全国で深刻化している空家問題は、人口減少や少子高齢化、都市部への人口集中など、さまざまな社会的要因と密接に関連しています。

横浜市では特に、空家問題が深刻化しています。平成30年住宅・土地統計調査によれば、市内の空家数は約17万8,300戸に達し、空家率は9.71%となっています。

空家の増加要因として、相続による所有者が遠隔地に在住していることが挙げられます。

所有者が遠方に住んでいる場合、物件の管理が行き届かず、老朽化が進行するケースが多く見られます。

例えば、解体費用や売却価格の見通しが立たないため、意思決定が先送りされ、結果として空家が放置されるケースが多く報告されています。

空家問題は、地域の景観や治安、さらには不動産価値にも影響を及ぼすため、早急な対応が求められます。

横浜市では、平成28年に「横浜市空家等対策計画」を策定、令和6年に「第3期 横浜市空家等対策計画」を策定し、空家問題への対応を強化しています。

この計画では、空家の適切な管理や活用促進、管理不足な空家への指導など、多角的な対策を推進しています。令和3年には「横浜市空家等に係る適切な管理、措置等に関する条例」を施行し、所有者に対する管理義務の明確化や、特定空家等に対する危険への迅速な対応を可能としました。

また、令和4年に株式会社クラッソーネと横浜市は、空家等の除却促進に係る連携協定を締結しました。AIを活用した「横浜市版 すまいの終活ナビ」で解体費用と土地の売却価格の概算額を無料で算出できるものです。

横浜市建築局建築指導部 建築指導課建築安全担当課長 川原氏は、この「横浜市版 すまいの終活ナビ」を担当し、横浜市の空家問題の解決に取り組んでいます。

本記事では、深刻化する横浜市の空家問題に向き合う川原氏に、横浜市の空家問題が引き起こす弊害やAIを活用した「横浜市版 すまいの終活ナビ」のサービス内容、導入効果、実現したい姿を含め詳しくお伺いいたしました。

引用:横浜市空家等対策協議会 「横浜市の空家をとりまく現状と課題」
https://www.city.yokohama.lg.jp/kurashi/sumai-kurashi/jutaku/sien/akiya/kyogikai.files/0610_20230807.pdf

引用:横浜市 「横浜市の空家等対策について」
https://www.city.yokohama.lg.jp/kurashi/sumai-kurashi/jutaku/sien/akiya/akiyatoutaisaku.html

引用:横浜市 「第3期 横浜市空家等対策計画」
https://www.city.yokohama.lg.jp/kurashi/sumai-kurashi/jutaku/shiryo/keikaku/housdata.files/0139_20240328.pdf

引用:横浜市 「横浜市空家等に係る適切な管理、措置等に関する条例」https://cgi.city.yokohama.lg.jp/somu/reiki/reiki_honbun/g202RG00002019.html

引用:横浜市 「空家等の除却促進に係る連携協定」
https://www.city.yokohama.lg.jp/city-info/koho-kocho/press/kenchiku/2022/0930crassone.html

横浜市建築局建築指導部 建築指導課担当課長 川原氏
目次

横浜市が直面する空家問題

横浜市内の空家の事例(現在は除却済)

──横浜市の空家問題について教えてください。

川原 はい。空家の問題は私たち建築局建築指導課が建築安全担当として取り組んでいる課題の一つです。横浜市の空家は平成30年には178,300戸にも登っており、令和5年度の相談件数は700件を超えております。空家が放置されると、建物や環境の劣化へも繋がるため、各所有者様に管理いただくことが課題となっていました。

──現在どのような状況にあるのでしょうか?

川原 空家の中には老朽化が著しいものが数多く存在します。その多くは相続が発生した際に空家になったもので、所有者のお子様方や相続人の方が空家とは違う場所、特に遠方にお住まいの場合が非常に多いのが現状です。

──空家の所有者が遠方にいることも多く、問題が深刻化しているのですね。

川原 空家をどうにかしようと思っても『一体いくらぐらいで売れるのか』『解体する場合にはどのくらいの費用がかかるのか』といったことが全く分からないまま、遠方の空家の処分を考えなければならない状況にあります。その結果、どうしても検討が先送りされ、そのまま放置されてしまうケースが非常に多いのです。

空家問題を解決!横浜市が導入した「すまいの終活ナビ」とは?

株式会社クラッソーネ サービスページより引用

横浜市は、令和4年9月30日より空家問題解決のために株式会社クラッソーネが開発したサービス、である「横浜市版 すまいの終活ナビ」を導入しています。

「横浜市版 すまいの終活ナビ」は、スマートフォン等から土地建物の面積や最寄り駅、接する道の幅などの条件を入力することで、 「解体費用」と解体後の「土地の売却価格」の概算額を手軽に無料で把握することができます。

横浜市 記者発表資料より引用

──現在導入されている「横浜市版 すまいの終活ナビ」について教えてください。

川原 「横浜市版 すまいの終活ナビ」は、自動で解体費用の概算額や解体後の土地の売却のおおよその概算額が出てくるサービスとなっています。このサービスの素晴らしいところは、質問が非常に簡単に書かれている点です。一般の方向けに配慮されており、特に建築や土地取引について全く詳しくない方でも、誰でも簡単に時間がかからず算定ができる仕組みになっています。

横浜市 「横浜市版 すまいの終活ナビ」ページより引用

──解体費用や土地の売却価格の算定について、具体的にはどのような仕組みになっているのでしょうか?

川原 解体費用や土地の売却価格については、株式会社クラッソーネ様がすでにお持ちの解体費用のデータや市内の解体相場や市場価格などの地域性が反映されています。概算額としては十分役立つという声を多くいただいております。そのため「横浜市版 すまいの終活ナビ」にて概算額を把握した上で、業者様へ具体的なお見積もりをいただくフローとなっています。

──とても便利なサービスですね。導入にあたってはスムーズに進んだのでしょうか?

川原 はい。令和4年9月30日に株式会社クラッソーネ様と空家等の除却促進に係る連携協定を締結いたしましたが、空家問題を解決できる点や導入にあたり費用がかからない点などによりスムーズに導入が決定しました。

「すまいの終活ナビ」活用の効果とさらなる可能性

横浜市 「横浜市版 すまいの終活ナビ」ページより引用

──実際に「横浜市版 すまいの終活ナビ」を導入し、どのような効果がありましたか?

川原 「横浜市版 すまいの終活ナビ」を導入することにより空家の数を減らすことへ繋がっています。株式会社クラッソーネ様より、本サービスを利用し実際に工事の契約などに至った事例が増えているとお聞きしています。具体的には、例えば管理ができておらず害虫が出てしまった実家をスピーディーに売却できたという声や近隣住民からの苦情があった空家を売却することができたという方もいらっしゃるとのことです。

──今後の運用期間に関してはどのように考えていらっしゃいますか?

川原 協定上、期間は区切られていますが、現在は自動更新の仕組みとなっており、私たちとしては引き続き本サービスを活用していく意向です。現時点で非常に有効に働いていると考えていますので、この協定を通じてさらに活用を進めていきたいと思っています。

──「横浜市版 すまいの終活ナビ」を導入したことで、市役所内での負担や新たな業務が生まれたりなどはありましたか?

川原 本サービスを導入後は、空家所有者の方々に『こういったサービスがありますのでご活用ください』とお知らせするなど一般向けに広報を行う活動が中心ですので、新たに負担になっているところや新たなが業務などはございません。

──横浜市が「すまいの終活ナビ」を勧めることで、利用者もさらに安心感や信頼感もあるのでしょうか。

川原 そうですね。横浜市と協定を結び、横浜市が関わっていることで、利用者の方にはさらに安心感を持っていただいていると思います。実際に横浜市が直接ご案内することもありますし、広報誌『広報よこはま』にも情報を掲載するなどして周知を図っています。

空家問題解決の一歩を後押し!地域の安全性向上へ


横浜市 「第3期 横浜市空家等対策計画」より引用

──横浜市版 すまいの終活ナビを通じて、どのような姿を目指していますでしょうか?

川原 私たちがこの取り組みを進める中で、空家の所有者の方々と接する機会が多いのですが、多くの方が次の一歩をどう踏み出せばいいのか悩んでいらっしゃいます。そうした悩みを解消し、一歩を踏み出すきっかけを提供することが、本サービスの非常に有効なポイントだと感じています。結果として、空家の解体や売却が円滑に進むことで、管理が行き届かない空家が減少し、地域の安全性を向上へ繋げていければと思います。また、その場所に新たな横浜市民が住むことで好循環が生まれると考えています。

──他の自治体での活用事例も見られますが、このサービスの応用や横展開についてはどのようにお考えですか?

川原 株式会社クラッソーネ様に伺ったところすでに40以上の自治体と協定を結びすまいの終活ナビを導入されているとのことです。他の自治体でも積極的に活用が進んでいるのを見て、この取り組みが全国的に広がり、多くの空家問題の解決に寄与することを期待しています。

──最後に、読者へのメッセージをお願いします。

川原 空家対策は横浜市だけでなく、どの自治体でも頭を悩ませる大きな課題だと思います。行政として所有者の方を後押しする中で、株式会社クラッソーネ様のような民間事業者のノウハウを活用することが、解決への大きな一歩になると考えています。空家対策が進むことで地域全体が活性化し、新しい住民を迎え入れる環境が整います。他の自治体とも情報交換をしながら、こうした取り組みを広げていけたらと思っています。

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