自動運転の普及に足りないピースを埋めるプロデュース力「自動運転バスが描く地方活性化への道」

地方の交通問題は、地域住民の生活の質や経済活動に大きな影響を及ぼす重要な課題です。人口減少や高齢化が進む中で、特に地方では公共交通機関の縮小が顕著となり、移動手段の確保が困難な状況が広がっています。

地方における交通問題の背景には、人口減少と高齢化が密接に関わっています。内閣府の統計によれば、2020年時点で65歳以上の人口は全体の28.8%を占めており、地方ではその割合がさらに高まる傾向にあります。高齢者が増える中、運転免許を返納する人も増加しており、公共交通機関への依存が高まる一方で、その公共交通機関が経営難から廃止されるケースが増えています。

国土交通省によれば、2020年の一般路線バス事業が赤字であるバス事業者の割合は約99.6%であり、人口減少に伴う利用者の減少が収益悪化を招いています。こうした状況では、地方の住民、特に交通手段を持たない高齢者にとって移動の自由が制限される深刻な課題となっています。

地域の過疎化が進行し、経済活動やコミュニティの維持にも悪影響が及ぶため、公共交通の持続可能性を確保するための新たな施策が求められています。これらの現代社会が抱える多くの課題を解決する鍵として、自動運転技術が大きな期待を集めています。

特に、運転手不足や交通事故のリスクを軽減しつつ、コスト削減と利便性向上を同時に実現できる可能性があり、地方交通の問題においても自動運転技術の進化と普及が極めて重要な役割を果たすとされています。そのため、政府や企業が積極的に取り組み安全で快適な移動環境を構築することが求められていますが、実際に実証実験を進めるには自動運転に関するノウハウや自動運転車両に関する知識等プロジェクトの進め方を熟知する専門人材が不足しており中々実証実験が進まないケースも多くなっています。

そのような状況の中、BOLDLY株式会社は他の自動運転関連企業とは異なる唯一無二の立ち位置を確立しています。車両の開発や製造を手掛けるのではなく、自治体や地域社会と連携しながら、自動運転の実証実験をコーディネートする役割を担っています。

このアプローチにより、単なる技術導入に留まらず、地域住民の生活を支える移動手段としての自動運転バスの導入を進めており、地方交通における具体的な課題解決を目指し、自治体と連携して実際に自動運転の実証実験を推し進めています。

本記事では、BOLDLY株式会社の代表取締役社長である佐治様に、地方の交通課題や人手不足の現状、同社が実施する自動運転の実証実験の詳細、そして今後のビジョンについて詳しくお話を伺いました。本取り組みがどのように地方の未来を形作っていくのか、その展望を探ります。

BOLDLY株式会社 代表取締役社長 佐治氏
目次

地方の交通が抱える人手不足と予算不足の課題

BOLDLY株式会社の会社HPより引用

──地方における交通の課題をどのように感じていらっしゃいますでしょうか。

佐治 人手不足と予算不足の2つの課題があります。人手不足に関しては、特にバスやタクシーの運転手が減少しており地域の足となる交通手段が不足しています。また、免許を返納する高齢者や車を運転できない方が増えており、コミュニティバスやオンデマンドタクシーを求める声が自治体や地域から強く寄せられています。このギャップが広がる中でバス業界の労働環境問題も重なっています。長時間労働や休憩時間不足が原因で、事故のリスクが高まり、若手が入ってきても長く働けない状況が続いています。例えば茨城県境町では、住民の要望を受けて自治体が予算をつけ、地元のバス会社に町内循環バスを運行してほしいと依頼しました。しかし、人手不足のためにバス会社がこれを断るケースが続きました。本来であれば、人を雇って手動運転で対応するのが理想ですが、人が集まらないという構造的な問題があります。

佐治 予算不足に関しては、日本には約1700の自治体がありますが、予算に余裕のある自治体はごく一部しかありません。例えば、ふるさと納税や観光収入で財源を確保している自治体では自動運転技術の導入が進んでいますが、ほとんどの自治体はそうした余裕がありません。当社としても非常に心苦しい状況で、国土交通省に相談し、自動運転バスの実証実験や車両購入のための補助金制度の拡充をお願いしました。その結果、現在では16地域で自動運転バスを広げています。このほとんどの地域が国の補助事業を活用した取り組みです。人手不足については自動運転技術の導入で対応できますが、そのためには予算が必要です。そのため、国を巻き込んで補助金制度や政策の充実を図る必要があります。

未来の移動をデザインする自動運転バス導入支援とプラットフォーム

BOLDLYは、自動運転技術を開発するメーカーでも、技術そのものを構築する企業でもありません。

自動運転の実証実験を推し進める「特別な役割」があり、多様なニーズに応じて自動運転の実証実験を設計し、地域社会と企業を繋ぐコーディネーターとして機能しています。

BOLDLY株式会社の会社HPより引用

自動運転技術を実社会に適用し、実現可能な未来の移動サービスを提案することに特化しており、例えば、路線バスとしての町中走行の実証実験では、地方自治体や住民と密接に連携し公共交通の課題を共に解決する方法を模索しています。

テーマパーク内でのイルミネーションエリア走行では、訪れる人々に新しい移動体験を提供しつつ、観光地運営における可能性を追求しています。

また、スポーツイベントでは会場内移動を円滑にするための自動運転車両を導入し、来場者の利便性を向上し、地域イベントでは自動運転車両を展示することで、未来の移動のビジョンを地域社会に広く共有しています。

これらすべては、単なるソリューション提供に留まらず、BOLDLYだからこそできる「課題解決と社会実装への道のり」を形にしており、新しい移動体験を通じて、地域社会の未来を共に創ることを実現しています。

また、BOLDLYのビジョンは、自動運転技術の導入自体ではなく、その技術を通じて地域住民や利用者に「移動の安心」を届けることにあります。

その中核を担うのが、自動運転バスの運行を安全かつ効率的に管理する自社開発のプラットフォーム「DISPATCHER」です。

BOLDLY株式会社の会社HPより引用

このプラットフォームには、遠隔からダイヤ走行やオンデマンド走行を柔軟に指示できる「走行指示」機能や、車両の位置情報、乗客の動き、車内外の状況をリアルタイムで確認し、迅速かつ的確な管理を可能にする「状態監視」機能が備わっており、乗客との通話や車両の点呼、機器点検など、安全運行に必要なプロセスを効率化し、運行全体の信頼性を高めています。

これらの機能を通じて、「DISPATCHER」を導入した自治体は、過疎地や高齢化地域においても住民に利便性と安全を提供しながら、地域全体の移動サービスの質を向上させることができます。

高齢者も子育て世代も便利!自動運転バスが地域と未来をつなぐ

BOLDLY株式会社の公式SNSより引用

──自動運転に関する実証実験の事業内容について教えてください。

佐治 大きく2つあり、1つは自治体の事業計画を支援しバス会社に自動運転の整備方法や運行方法を指導して、自分たちで日々運行できる支援を行うことです。実証実験を行うと住民の皆さんが歓迎ムードで垂れ幕を掲げてくださったりして驚きました。新しい自動運転車が地元を走ることで反対意見や危険視する声が多いのではと思っていたのですが、むしろどんどん進めてほしいという反応が多かったです。準備にはもちろんお金がかかりますが、有料でサービスを提供し始めると次々に案件が舞い込んできました。その結果、車両を購入する自治体が増えています。

自動運転に関する実証実験に関する詳細はこちら:https://www.softbank.jp/drive/service/demonstration

佐治 もう1つは自動運転車両運行プラットフォームの導入です。自動運転車の運行には、デジタルマップやセンサーの調整、警察との連携など、さまざまな準備が必要です。車両が動き出すと、月額課金の形で本プラットフォームにおける遠隔監視システムの利用料をいただいています。自動運転車そのものはメーカーが作り込んでおり、動作は非常に安定していますが、私たちが目指しているのは『車が動く』ことではなく、『乗客が安全に目的地まで運ばれる』ことです。そのためには遠隔での見守りシステムが不可欠です。例えば車両が発車する際に立ち上がっている乗客がいれば出発を見合わせたり、アナウンスで注意を促したり、車内で転倒が起きれば即座に対応が可能になります。画像認識やAIを活用して異常を検知し、適切な対応を取るようにしています。現在、茨城県では10か所の自動運転バスを遠隔で見守っています。緊急対応発生率も低く一人の監視者が40台程度のバスを担当し、自動運転時代の安全管理体制を実現しています。

自動運転車両運行プラットフォーム「DISPATCHER」に関する詳細はこちら:https://www.softbank.jp/drive/service/dispatcher

──自動運転技術を普及していく上での課題についてもお聞かせください。

佐治 自動運転バスの製品自体はどんどん開発されていますが、現状では販売が伸び悩んでいます。これは、車両が活躍するステージが整っていないからです。自治体側にはインフラ整備やセキュリティ、人材の確保、ネット環境の整備といった課題が山積しています。また、自治体に十分な予算が渡る仕組みも必要です。そこで、私たちは地域の特産品やスポンサー広告を活用した資金調達のサポートも行っています。たとえば、茨城県境町では、地域のスポンサー企業が寄付をしてくれることで運賃収入を補填し、運行を支えています。北海道では、バスを通じて知名度を上げ、デジタル社会推進のための寄付を呼びかけることで、運行費用の安定化を図っています。

佐治 自動運転は、地域交通の未来を切り開く可能性を持っています。少子高齢化が進む中で、過疎地域でも移動手段を確保することが重要です。そのためには、交通事業そのものに予算が行き渡る仕組みを構築し、イノベーションを実現させることが必要です。また、メーカーも自動運転技術を進化させてくれていますが、購入する側に資金がないと導入できない課題があります。自治体が自らの資金力を高め、交通事業を軸にした地域活性化を進め、持続可能な交通インフラを実現する必要があると考えています。

BOLDLY株式会社の公式SNSより引用

──自動運転バスを導入したことで、どのような効果がありましたか?

佐治 導入後、住民の生活が大きく変わったという反響をたくさんいただいています。たとえば、免許を返納された方々は、これまで病院に行くためだけの移動など必要最低限の移動しかできませんでした。それが自動運転バスを利用することで、自分で出かけられるようになり、スーパーや友人との外出の頻度が増えました。家族からは『おじいちゃんが外出するようになって明るくなった』とか、『送り迎えの負担が減って助かる』といった声が寄せられています。また、子育て世代の方々の利用も増えています。お父さんが車を使って仕事に行くため、お母さんたちは徒歩や自転車しか移動手段がない場合が多いんです。買い物や子育て支援センターへの移動に自動運転バスを利用されていて、SNSでお母さんたちの間で情報が共有され、『楽しかったよ』とか『意外と便利だった』というポジティブな意見が広がっています。

佐治 自動運転バスの導入による経済効果も大きいです。たとえば、自動運転バスを導入した自治体で国際会議が開催されたり、CMで取り上げられるなどして、自治体全体に注目が集まりました。スポンサーも付き、試算では約27億円の経済効果があったと報告されています。約3億円の運行経費をかけても、その10倍近い効果が出ていると考えれば、十分に元が取れていると言えます。住民に喜ばれること、経済効果が出ること、この2つが揃うことで、自治体や議会も『予算を投じる価値がある』と判断し、事業規模が拡大しています。現在では反対者もほとんどおらず、拡大基調にあると感じています。

──地域との連携や住民の反応について、特に印象的だったことはありますか?

佐治 お母さんたちから子どもたちへも波及した点がとても印象的です。夏休みには自由研究のテーマとして、自動運転バスを取り上げていただく機会もありました。保育園の子どもたちをバスに乗せてくださいといったリクエストもあり、地域全体で関わりが深まっています。さらに、住民の方が自動運転バスを描いた手作りのケーキを差し入れてくださったり、自動運転バスのポスター作りを手伝ってくれたりと、さまざまな形で支えていただいています。自動運転バスが完璧かと言えばそうではありませんが、住民の方々の意識も変わり、地域全体で自動運転を支えてくれています。

プロデュース力で切り拓く次世代交通、幅広い支援で実現する自動運転

BOLDLY株式会社の会社HPより引用

──自動運転バスを導入するBOLDLY株式会社の強みについても教えて下さい。

佐治 プロデュース力が強みです。私たちは、自動車メーカーでもなければ、バス事業者のような長い運行実績があるわけでもありません。だからこそ自治体と企業の間を取り持つ『モビリティプロデューサー』の立ち位置を確立しています。自動車メーカーは交通事業者の運用現場の課題を理解しきれていない部分があり、交通事業者はIT技術に不慣れなケースもあり、自動運転の仕組みを十分に活用できないこともあります。私たちはこの両者をつなぎ、自動運転バスを現場で安心して使える土壌を作ることを目指しています。具体的には、遠隔で見守る運行管理システムや、エレベーターの監視システムのような仕組みを開発し、交通事業者が自動運転バスを道具として安心して運用できるようにサポートしています。

佐治 たとえば、茨城県のある町では5億円の予算をいただいて自動運転バスの導入をサポートした事例があります。当初は、遠隔監視システムの提供くらいが私たちの役割だと思っていたのですが、実際にはそれ以上にやるべきことが多くありました。交通事業者、メンテナンス事業者、地元のパートナー企業、住民の方々など、多くのステークホルダーと連携し、それぞれに何ができるかを調整しました。運行計画をバス会社と一緒に作り、車両の選定からビジネスモデルの構築まで、自治体や市場会にはまだ具体的なアイデアがなかったため、すべてゼロからサポートしました。さらには、セレモニーの準備や運行開始に至るまでの調整業務も手がけました。これらは、私たちにとっても初めての経験ばかりでしたが、実際に手を動かしながら形にしていきました。このように準備段階からサポートし、海外の車両を使う場合、メーカーが『対応できない』と言えば、私たちが留学して技術やノウハウを学び、そのギャップを埋めることもありました。

──現在、自動運転における実証実験の問い合わせも多いのでしょうか?

佐治 問い合わせも多く、さまざまなニーズに迅速に対応できる体制が整えています。たとえば、自治体から『何台の車両をどのように導入すれば良いか』といった質問があれば、5年間の予算計画や実績に基づいて具体的な提案が可能です。これまでの経験を活かし、『この車両なら何か月で納入が可能で、設定後すぐに運行を開始できる』といった具体的なスケジュールも提示できるようになっています。こうした実績が積み重なる中で、私たちのチームも成長しています。新しく入ったメンバーが3か月ほどで独り立ちし、地域に根付いた『モビリティプロデューサー』として、自治体や地域の関係者に積極的に提案を行うまでに成長しています。このように、ノウハウの蓄積と人材育成が進むことで、より多くのニーズに対応できるようになっていると感じています。

自由な移動がもたらす未来へ、自動運転バスで地域活性化を目指す

BOLDLY株式会社の会社SNSより引用

──自動運転バスの普及に向けたビジョンをお聞かせください。

佐治 私たちは、日本で100万台の自動運転バスシャトルを普及させたいと考えています。現在、日本で運行しているバスは約6万台ですが、この台数は今後さらに減少すると言われています。私の考えでは、自動運転バスは『横に動くエレベーター』のようなものです。自宅から数分の距離で利用でき、ボタンを押せばすぐに車両が来て駅や目的地まで運んでくれる。移動の自由を保証するものにしていきたいと思っています。 運転ができる人もできない人も、自由に好きな時に好きな場所へ行ける。例えば家族や友人に会いに行ったり、買い物に行ったり、そうした自由が当たり前の社会を実現するのが私たちのビジョンです。

佐治 例えばドイツのハンブルクでは、将来自家用車をなくし、町の中を電車と自動運転車だけで回す計画を立てています。その際、1つの市で1万台の自動運転車を導入する予定だと言います。日本でも、こうした参考例を元に考えた時に、私はエレベーターが良い比較対象になると感じました。日本には約90万台もの縦に動くエレベーターがあります。エレベーターは無料で利用できますが、そのおかげで高層階に住むことや、デパートの屋上に行くことが可能になり、経済的な波及効果をもたらしています。同じように、横に動くエレベーターとしての自動運転バスが町の中を走れば、住民の移動の自由を支え、経済を活性化させるでしょう。移動そのもので収益を上げるのではなく、移動先での消費や地域活性化による間接的な利益を重視すべきです。

佐治 これまでの公共交通は、運賃収入に頼る仕組みが基本でした。しかし、それでは限界があり、私たちは運賃に依存しない新しいビジネスモデルを再発明したいと考えています。例えば、ある町の調査によると、自動運転バスを無料で移動した後の買い物額は1人あたり2000円から3000円に達するそうです。人口が減少しても、出かける頻度を増やすことで経済を活性化させ、福祉や医療、交通に資金を循環させられる仕組みを目指しています。

──最後に読者へのメッセージをお願いします。

佐治 日本全体における地域の活性化は非常に重要なテーマです。地方には豊かな自然や広々とした住環境、地域のお祭りなど、季節や人とのつながりを楽しめる文化があります。自動運転バスは、地方での移動の自由をもたらし、人々が出かける頻度を増やし、地域経済を活性化させる鍵になると考えています。これが結果的に持続可能な自治体や住み続けられる日本全体を保つことにつながります。その段階に至った時、自動運転バスが社会の役に立ったと胸を張って言えると思っています。

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