日本の高齢化が進行する中、介護業界は深刻な人材不足という課題に直面しています。厚生労働省の推計によれば、2026年度までに年間約6万3,000人の介護人材の新規増員が必要とされています。
しかし、現状では多くの介護施設が慢性的な人手不足に悩まされており、介護サービス事業所の約66.3%が従業員の不足を感じており介護業界では人材の確保が大きな課題となっています。
この人材不足の背景には、少子高齢化による労働人口の減少が大きく影響しています。国立社会保障・人口問題研究所の推計によれば、2040年には総人口が約1億1,092万人に減少し、65歳以上の高齢者が全人口の約35%を占めるとされています。
人材不足は介護職員一人ひとりの負担増加を招き、結果としてサービスの質の低下や職員の離職率の上昇へと繋がる可能性があります。
特に地方においては、都市部と比較して人材確保が難しく、地域間での格差が顕著です。このような状況下で、介護サービスの提供体制の維持・強化が求められています。
これらの課題に対する解決策の一つとして、介護ロボットの導入が注目されています。例えば、施設の入り口での案内業務や、利用者の部屋まで荷物を運ぶ作業を担うことで、職員の負担を軽減し、より専門的な介護業務に集中できる環境を整えます。また、高齢者の見守り機能も備えており、異常が発生した際には即座に通知することで、迅速な対応を可能にします。
丸文株式会社が提供するヒューマノイドAIロボット Aeolus Robot(アイオロス・ロボット)は、介護施設における見守り警備、除菌機能を備えた多機能ロボットとなっています。同社は介護業界の人手不足に対応するため、AIとロボティクス技術を活用したソリューションを提供しており、アイオロス・ロボットの導入による現場の負担軽減や今後の展開について詳しく伺いました。
引用:厚生労働省 第9期介護保険事業計画に基づく介護職員の必要数について
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_41379.html
引用:公益財団法人 介護労働安定センター 令和4年度 介護労働実態調査結果について
https://www.kaigo-center.or.jp/report/jittai/2023r01_chousa_01.html
引用:厚生労働省 令和5年 新しい時代の働き方に関する研究会
https://www.mhlw.go.jp/content/11201250/001166380.pdf

介護・医療現場が抱える課題、ICT導入はなぜ進まない?

ーー介護や医療の現場では、ICT導入の課題としてどのような点が挙げられるでしょうか?
織田 少子高齢化に伴い、介護や医療業界だけでなく、あらゆる業界で人手不足が問題視されています。その中で介護や医療分野においてはICT導入が不可欠であるにもかかわらず、資金不足やリテラシーの問題が大きな壁となっています。オンライン化の遅れもあり、なかなか進まないのが現状です。また、我々ベンダーの立場から見ると、介護の現場ではさまざまな課題があり、それらすべてに対応しようとすると、システムの機能が増え続け、結果として操作が複雑化し、コストも上昇してしまいます。このバランスをどう取るかが、非常に難しい課題だと感じています。
ーーアイオロス・ロボットを導入した現場では、どのような課題があるのでしょうか?
織田 現在、いくつかの施設でアイオロス・ロボットを導入していただいていますが、共通して直面する課題として、まずコストの問題が挙げられます。導入したくても予算の確保が難しいという声は多いですね。また、せっかく導入しても、ロボットの活動履歴を確認せずやりっぱなし状態になってしまっている。介護現場のスタッフの皆さんは日々忙しく、新しいシステムやロボットに慣れる時間の確保や、ロボットと協働する意識を持つのが難しいのが実情です。このあたりをどう支援していくかが、今後の大きなテーマだと考えています。
アイオロス・ロボットが介護現場を変える

ーーアイオロス・ロボットにはどのような機能があり、どのように介護現場で活用されているのでしょうか?
織田 アイオロス・ロボットは人型で、両腕を持っており、エレベーターのボタンを押したり、介護施設のスライドドアを開けたりすることができます。グリッパー(つかむ部分)を交換することで、紫外線ライトを使った除菌も可能です。また、AIによる頭脳、3Dビジョンによる視覚、そして自立移動機能を備えております。例えば、ベッドの上に横たわっている人は休んでいると判断し、異常とみなしません。一方で、床の上に倒れている場合は転倒と認識し、アラートを出すことができます。導入前には、施設の構造をロボットに覚えさせるマッピング作業を行い、どこが何号室か、エレベーターはどこかなどを設定します。5階建てであれば各階すべてを登録し、ロボットが全自動で働けることを確認したうえで引き渡します。この導入作業には1~2週間ほど必要ですが、その後は自動運用できるのが大きな強みですね。
ーーアイオロス・ロボットを導入することで、夜間巡視の業務はどのように変わるのでしょうか?
織田 完全に人を減らすという段階にはまだ至っていません。特に大規模な施設ではない場合、人の役割を完全に代替するのは難しいですね。夜間巡視をロボットに任せられると言うと、“人が巡視しなくていい”と誤解されがちですが、ロボットにもできることとできないことがあります。例えば、ロボットは入居者の姿勢を確認し、異常があればアラートを出せますが、人間の介護士が行う呼吸の確認や万が一の対応まではできません。そのため、通常夜間巡視を5回行う場合、ロボットが3回担当し、人の巡視を2回に減らせるといった形で負担を軽減することを目指しています。重要なのは、ロボットと人間の役割分担を明確にし、現場の方々に正しく理解してもらうことです。ロボットは100%人間の代わりにはなれませんが、業務の効率化には大きく貢献できます。この認識の浸透が進まないことが、普及の課題の一つだと感じています。
ーー介護AIロボットの技術的な特徴について教えてください。
織田 AIが活躍しているのは主に認識の部分です。例えば、ロボットが姿勢を判断したり、エレベーターのボタンがどこにあるかを識別したりする機能ですね。事前に覚えさせたパネルの位置を正しく認識し、確実にボタンを押せたかどうかもAIがチェックします。また、目的地までの経路を最適化するナビゲーション機能も重要です。カーナビのように、その時々で最適なルートをAIが判断し、スムーズに移動できるようになっています。こうした移動や認識に関わる部分でAIが活用されています。
アイオロス・ロボットの夜間巡視はこちら:https://youtu.be/agBCy6umLY0?si=zEtfGRpGNdajcPHC
アイオロス・ロボットのエレベーターの乗り降りはこちら:https://youtu.be/6TZgVM96HLI?si=iBzgLFi803YZNVEl
アイオロス・ロボットのUV局所除菌はこちら:https://youtu.be/_YfxQot3ilU?si=AdkCXL6cqNugfEA7
介護ロボット導入で業務はどう変わる?

ーー貴社の介護AIロボットの強みについて教えてください。
織田 我々のロボットは、他の多くの介護ロボットとは違い、2本の腕を持っている点が大きな特長です。通常、サービスロボットには腕がないことがほとんどですが、当社のロボットはエレベーターのボタンを押して自ら階層を移動できます。例えば、警備ロボットでもエレベーターを利用するには高額な無線設備が必要ですが、当社のロボットなら無線によるやりとりも必要なく自律的に移動が可能です。また、グリッパーも紫外線照射タイプと物を掴むタイプの2種類があり、今後さらに改良を加えることで、できる作業の幅が広がると考えています。さらに、運搬機能も強化しており、利用者がバスケットに物を入れれば、ロボットが目的地まで運ぶことも可能です。こうした拡張性の高さが、人型ロボットの大きな利点ですね。
ーー介護AIロボットを導入した際の利用者の反応はいかがですか?
織田 最初は慣れない部分があったようですが、一定期間使ううちにロボットの得意なことや苦手なことが分かり、人がやるべきこととの役割分担が明確になってきます。その段階になると、『かなり楽になった』という声をいただいています。やはり最初は多少の苦労や慣れるまでの時間は必要ですが、一度慣れてしまえばスムーズに使いこなせるようですね。
ーーアイオロス・ロボットは全自動とのことですが、導入後の課題はありますか?
織田 はい、我々のロボットは全自動なので、操作に関する問題は比較的クリアできていると考えています。ただ、その分コストがかかる点はやはり大きな課題です。また、ロボットに頼りすぎる傾向が見られることもあります。確かに自動で動き、任務を終えると充電器に戻るため、スタッフの方々は他の業務に集中できます。ただ、障害物があった場合など、ロボットが任務を完了できないケースもあります。その際、ロボットはレポートを出しますが、その情報を活用し、人がフォローする意識が現場にまだ十分浸透していないと感じています。障害物を取り除くなど、ロボットと人が協力しながら環境を整えることが大切ですね。
受付業務を自動化するロボットも!タッチパネル&音声入力対応

ーー貴社では介護AIロボット以外にもロボットを扱っていると伺いましたが、具体的にどのようなものがありますか?
織田 当社では、アイオロスだけでなく、AI搭載のコミュニケーションロボットも扱っています。例えば、NUWA社の『ケビー・エア』というロボットがあり、ChatGPTを活用した自然な会話が可能です。従来のコミュニケーションロボットは会話のやり取りが難しいことも多かったのですが、これにより利用者との円滑な対話が実現できるようになりました。特に、介護施設ではレクリエーションのサポートや、受付業務の自動化に活用されています。例えば、来訪者の受付では、ロボットが名前を聞き取り、タッチパネルで入力できるほか、ペーパーレスでデータをクラウドに記録することも可能です。面会目的や外出時の行き先、帰宅予定時間などを選択できるようカスタマイズもできるので、施設の運営効率化に貢献しています。また、音声入力と手入力の両方に対応し、現在はQRコードを活用した受付システムも開発中です。1回目の入力後はQRコードをスマホで提示するだけで受付が完了するため、よりスムーズな運用が可能になります。こうした機能を充実させ、介護施設向けの最適なカスタマイズを進めているところです。
織田 当社のロボットは、単なるカスタマイズにとどまらず、介護施設ごとのニーズに応じた対応が可能です。例えば、施設名を指定して『〇〇介護施設へようこそ』と案内する機能や、顔認識機能を活用して『織田さん、こんにちは』と名前を呼んで挨拶する機能が備わっています。こうした柔軟な設定ができることで、より親しみやすく、利用者に寄り添ったロボットとして活用していただけるのではないかと思います。
ロボット×ICTで介護現場の生産性向上へ

ーー介護AIロボットの導入による効果や目指している方向性について教えてください。
織田 私たちの目標は単に人手不足を補うことではなく、生産性の向上を実現することです。しかし、ロボット単体では介護施設の一部の業務効率を改善するに過ぎません。そこで、現在国が進めているICT導入の流れに合わせ、他のICT技術と連携することで、施設全体の効率向上を目指しています。ただロボットを導入するだけでは自己満足で終わってしまいます。常にお客様目線で、データを活用しながら、より広い視野で介護の現場に貢献していきたいと考えています。
ーー最後に、読者へのメッセージをお願いします。
織田 現在は、関東を中心に導入を進めておりますが介護の人手不足は地方ではより切実な課題として直面していると考えており、ICT導入への意欲も地方のほうが高いと実感しています。それにもかかわらず地方では、関東圏にあるICT導入を進める企業と距離が離れているためサポートを得る機会も少なく、導入を諦めるケースもあるようです。私たちは地域によって対応に差が出ないよう、サポート体制を構築していきたいと考えています。お困りの際はぜひご相談いただければと思います。