地方では人口減少と少子高齢化が同時に進み、自治体が教育・医療・商業・交通などの生活に必要な機能を維持しながら、住み続けたい、住んでみたいと思われる街であり続けることは簡単ではなくなっています。
内閣府の令和6年版高齢社会白書によると、2024年時点で65歳以上の人口は3,624万人となり、高齢化率は29.3%に達しています。高齢者が増えると、医療や介護の必要性が高まり、自治体の財政や人材の負担も大きくなり、働く世代が減ると税収や地域を支える人手が不足し、生活サービスの維持が難しくなるおそれがあります。
また、住民の健康状態は地域の将来にも大きく関わり、厚生労働省によると、2022年の健康寿命は男性72.57歳(平均寿命81.05歳)、女性75.45歳(平均寿命87.05歳)で、平均寿命との差が開いている状況です。この差が縮まらない場合、介護や治療が必要な期間が長くなり、本人だけでなく家族の負担も増えるほか、地域の働き手不足にもつながります。
このような背景から、生活習慣病の予防を通じて健康寿命を延ばし、住民が長く元気に暮らせる環境をつくることが、個人の生活の質の向上だけでなく、地域の持続性を維持するうえでも重要となっています。
しかし、生活習慣病の予防が重要と分かっていても、実際の行動につながっていない人も少なくありません。厚生労働省の令和5年国民健康・栄養調査では、運動習慣のある人は男性38.5%、女性31.5%にとどまり、特に若い世代や働き盛り世代で低い傾向が見られ、忙しさなどを理由に、健康づくりに取り組むきっかけを持てない人が多いことが課題となっています。
そこで山形市では、市民の健康寿命を延ばし、将来にわたって安心して暮らせる街を目指すため、生活習慣の大切さを分かりやすく伝え、アプリを活用して健康づくりを後押しする健康ポイント事業「SUKSK(スクスク)」を進めています。この取り組みでは、歩数や健診結果などのデータをもとにポイントが貯まり、AIが一人ひとりに合った健康アドバイスを提供し、企業との連携や地域の特徴を生かしたイベントを通じて、市民が楽しみながら健康づくりに取り組める工夫がされています。
今回、SUKSK事業をどのような目的で始め、また今後どのように発展させていくのかについて、山形市の健康医療部 健康増進課 SUKSK(スクスク)推進係 係長 大場氏にお話をうかがいました。
引用:内閣府「令和6年版 高齢社会白書」
https://www8.cao.go.jp/kourei/whitepaper/w-2024/html/zenbun/s1_1_1.html
引用:厚生労働省「健康寿命の令和4年値について」
https://www.mhlw.go.jp/content/10904750/001363069.pdf
引用:厚生労働省「令和5年 国民健康・栄養調査結果の概要」
https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/001338334.pdf

山形市が健康医療先進都市を目指した背景

ーー今回の健康ポイント事業「SUKSK」を導入・運営されるに至った背景や課題について教えてください。
大場「山形市では、『健康医療先進都市』というビジョンを掲げ、持続可能なまちづくりに取り組んでいます。人口減少や少子高齢化が進む中、自治体が選ばれる街であり続けるためには、教育、商業、医療などの都市機能を維持・強化することが不可欠であり、これらの都市機能の充実を通じて、街の活力を維持していく必要があるからです。」
大場「都市機能の中で、山形市には下記3点のように健康と医療の分野に相対的優位性があります。この強みを街の個性として打ち出し、目指す都市ブランドとして佐藤市長が掲げたのが『健康医療先進都市』です。このビジョンに基づき、市民の健康寿命の延伸を目指し、SUKSKをはじめとしたデジタル技術を活用した健康づくり施策を進めています。」
[山形市の強み]
- 人口10万人当たりの医師数および病床数が東北・北海道の中核市の中で第1位であり、全国62の中核市の中でも、医師数が第5位、病床数が第8位と医療資源が非常に充実している
- 全国に82しかない大学病院のうちの1つが山形市に所在し、北海道・東北で初となる重粒子線治療を行う山形大学医学部東日本重粒子センターは、世界初の総合病院接続型の治療施設である。
- 温泉などの自然環境や伝統的な郷土料理、豊かな食文化など、健康に資する地域資源に恵まれている。
ーー現在認識されている課題についても教えてください。
大場「健康寿命の延伸に向けて、ソフト・ハードの両面からまちづくりとして取り組んでいくことが重要です。若いうちから健康づくりに取り組むことが将来的な疾病予防につながると考え、特に働き盛り世代へのアプローチを重視し、将来の健康課題を見据え、早い段階から健康行動を促す仕組みづくりを進めています。」
SUKSKが支える健康政策の全体像

ーー健康ポイント事業SUKSKについて内容を教えてください。
大場「市民の健康寿命の延伸を目指すためには、若いうちから生活習慣の改善を促す必要があります。生活習慣の重要な要素である食事(S)・運動(U)・休養(K)・社会参加(S)・禁煙(K)及び受動喫煙防止の頭文字をとって『SUKSK』という健康づくりのキーワードを作り、バランスのとれた『SUKSK生活』を独自に提唱し、市民に推進しています。それを具体的な仕組みとして形にしたものが健康ポイント事業SUKSKです。」
大場「市長からは、せっかくの良い取組であっても、住民に伝わらなければやっていないのと同じだと言われています。伝え方や見せ方を工夫し、誰でも理解しやすく、記憶に残る形で発信しており、SUKSKと聞いて健康に関する取り組みだと認識してもらうことで、市民が健康行動を意識するきっかけづくりにつなげています。」
大場「健康ポイント事業SUKSKは、市民がSUKSK生活を実践するための具体的なツールとして導入しました。アプリの活用方法や運用面で独自の創意工夫を重ねており、累計登録者数は年々増加し、2025年12月時点で2万人を突破しました。事業の対象としている山形市の18歳以上の人口の約1割に相当します。
特に、健康に関心の低い層や働き盛り世代への普及を重視し、デジタルの活用に加え、企業や団体と連携した取り組みやプロモーションを進めてきたことが、事業の浸透につながっていると考えています。」
ーー色んな健康ポイント事業がある中で、SUKSKの強みはどこにあるのでしょうか。
大場「山形の地域資源を生かしたり、企業等と連携することで事業を拡張しています。例えば、近年注目の高まっている低山ハイキングの人気に合わせて、市内の里山の山頂にQRコードを設置し、登ることでポイントを取得できる仕組みを導入しました。また、企業と連携したキャンペーンを実施し、メディアに取り上げてもらうことで、市民への周知を進めてきました。さらには、「ポイントアップデー」という特定日に一定歩数以上歩くとポイントが5倍になるという仕組みを創設し、遊び心とナッジ的アプローチを活かして行動変容に取り組んでいます。そして、どんなに良い政策でも、市民に知られていなければ意味がないので、オウンドメディア、マスメディア、ローカルメディアなどを活用し、行動変容ステージモデルに応じた情報発信を行っています。」
大場「また、オリジナルのSUKSKノベルティグッズを作成し、子どもをきっかけに親世代へ広げる取り組みを行っています。アプリのサポート会で登録した方にグッズを配布することで、子どもが興味を持ち、それをきっかけに親が登録するケースも多く見られ、このように、子ども世代を入口とした普及を進めている点も特徴の一つです。」
AIを活用した市民の行動変容を促す仕掛けづくり

ーーAIはどのようなところに導入されているのでしょうか。
大場「健康ポイント事業は、多くの市民に共通の健康行動を促す仕組みですが、個人ごとの健康状態に応じた対応には限界がありました。そこで、より効果的な健康支援を行うため、個人の健診結果や歩数データを基に、AIを活用した一人ひとりに合わせたアドバイスを提供する仕組みの開発に至りました。」
大場「AIアドバイスは、健診結果と歩数データを基に週1回スコアが更新され、その結果に応じてミッション形式のアドバイスが提示される仕組みです。市民の意識改善や行動変容を促し、アンケートでも、多くの利用者から有用だったとの評価を得ています。
利用にはマイナンバーカード連携が必要ですが、現在マイナンバーカードの普及が進んでいることから、今後はよりデータ連携が進み、活用しやすい環境が整っていくと考えています。」
ーーこのAIアドバイスを、今後どのように発展させていきたいと考えていますか。
大場「主な対象は、壮年期の働き盛り世代であり、この世代はデジタルを活用しやすく、早い段階から健康管理に取り組むことで、将来的な疾患の予防につなげることができます。そのための支援ツールとして、SUKSKアプリを活用してもらいたいと考えています。
一方で、行政が提供するサービスはあくまで選択肢の一つのため、市民一人ひとりが自分に合った方法を選ぶ中で、こうした仕組みを活用して健康づくりにつなげてもらうことを目指しています。」
成功に導くための持続可能な健康施策

ーー持続可能な健康施策にするためにはどのようなことが重要でしょうか。
大場「重要なのは、明確なターゲットを設定し、その層に対してどのようにアプローチするかを戦略的に設計することです。当市であれば、働き盛りの健康無関心層の行動変容を社会課題として捉えています。従来と同じ教育的アプローチだけでは幅広い普及は期待できないため、戦略的な施策広報も非常に重要になります。どれほど優れたサービスでも、市民に知られなければ活用されませんので、民間のヘルスケアアプリも参考にしながら、ソーシャルマーケティングの視点を取り入れて行政サービスのプロモーションに取り組むことが、社会課題解決の鍵になると考えています。」
大場「優れた取り組みを積極的に参考にし、自分たちの自治体に合う形で展開していくことが、市民サービスの向上につながります。他自治体だけでなく、民間企業の成功事例も学び、それを自分たちの地域の実情に合わせて展開していくことが大切です。」
ーー最後に、自治体関係者へのメッセージをお願いします。
大場「創意工夫に限界はありません。楽しくなければ続けられません。従来の発想や事業領域にとらわれず、広い視点で情報を収集し、トライアンドエラーでチャレンジと改善を繰り返していくことで、より効果的な施策につながると考えております。」

