地方の病院や薬局では、少ない人数で調剤だけでなく医薬品の入庫、保管、在庫管理、払い出しまで行う必要があり、現場の負担が大きくなっています。
厚生労働省の令和6年医師・歯科医師・薬剤師統計によると、全国の届出薬剤師数は329,045人で、そのうち、病院で働く薬剤師は57,595人、薬局で働く薬剤師は197,437人です。特に病院薬剤師については、厚生労働省の資料でも、20〜40代の給与水準が薬局薬剤師より低いこともあり、地方の病院薬剤部を中心に人材の確保が課題となっています。多くの薬剤師が働く病院や薬局は地域医療を支える大切な場所である一方で、仕事の中には、今も医薬品という「物」を扱う定型的な作業が多く残っています。
たとえば、納品された医薬品の箱を確認し、所定の場所へ入庫・棚入れし、在庫数を確認しながら必要に応じて払い出すといった作業は日々発生し、薬剤師の時間を圧迫しています。
また、令和5年度衛生行政報告例によると全国の薬局数は62,828施設、人口10万人あたり50.5施設です。都道府県別では佐賀県64.5施設、沖縄県39.4施設と差があり、薬剤師確保計画ガイドラインでも、こうした地域差や働く場所の偏りを踏まえ2036年までの改善が長期目標とされています。人材を確保しにくい地域ほど、日々の医薬品の入庫・棚入れ・在庫確認・払い出しといった「物を扱う業務」を減らし薬剤師が人に向き合う時間を確保することが重要です。
このような病院や薬局における医薬品管理の作業負担の軽減に向けて、自動入庫装置の導入も進められてきました。しかし、従来の自動入庫装置では、薬局で扱う医薬品の箱のゆがみや光の反射、わずかなサイズの違いを安定して処理しにくい場合があります。決められた動きだけで処理する装置では、薬局ごとの箱の状態や作業環境の違いに対応しにくく、人の経験や感覚に頼った調整が必要になることが課題です。
こうした課題に対し、フィジカルAI搭載の完全自動入庫システム「リードル・ファシス」は、病院や薬局の入庫業務を自律的に支援します。3DビジョンとAIにより、箱のゆがみや反射、サイズの違い、製品の密集や重なりを認識して搬送を制御し、最大360パッケージ/時の処理能力で、入庫から払い出しまでを一貫して支援できることが特徴です。今回、「Ultra Phasys」の開発・提供を行う株式会社メディカルユアーズロボティクスの代表にお話を伺いました。
引用:厚生労働省「令和6(2024)年医師・歯科医師・薬剤師統計の概況」
https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/ishi/24/dl/R06_1gaikyo.pdf
引用:厚生労働省「薬剤師の偏在への対応策」
https://www.mhlw.go.jp/content/11121000/001079647.pdf
引用:厚生労働省「令和5年度衛生行政報告例の概況」
https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/eisei_houkoku/23/dl/gaikyo.pdf
引用:厚生労働省「薬剤師確保計画ガイドライン」
https://www.mhlw.go.jp/content/001298149.pdf

日本の薬局現場に残る“当たり前”の非効率
ーー病院や薬局における地域医療において、どのような課題を認識されていますか。
渡部氏「高齢化により医療費は増え続けており、このままでは医療制度の持続が難しくなる可能性があります。ただ単に医療費を削れば医療の質が下がってしまいますので、大切なのは、医療の質を保ちながら現場の負担やコストを抑えることです。私はもともと薬剤師として薬局を経営しながらロボットの開発を進めておりましたが、今後ロボットやAIが大きな役割を果たせると考えています。」
渡部氏「海外の薬局を視察して、日本の薬局業務は非常に手間が多いと感じました。多くの国では、医薬品を箱出しで調剤する運用が広く行われています。アメリカでは箱出しではなく、バラ錠をボトルに詰める調剤が中心ですが、錠剤の計数やボトル充填を行う専用ロボットの導入が1990年代以降に進み、調剤工程の自動化が高度に進んできました。これに対して、日本では薬剤師が棚から薬を取り、PTPシートを切り、輪ゴムでまとめ、袋に入れて患者さんに渡すというハンドピッキングが今でも一般的になってしまっており、この作業が、世界と比べると現場の生産性を上げるうえでの課題になっていると感じました。」
渡部氏「また、海外では箱のまま薬を払い出すロボットが広く使われていますが、私はそれを日本でも使えるようにし、薬剤師の“物を扱う業務”を大きく減らしたいと考えています。そうすることで、薬剤師は患者さんと向き合い、薬を正しく飲めているか、飲みすぎていないか、不要な薬はないかを確認する本来の役割に集中することができます。海外では、薬剤師が継続的な薬物治療に関わる国もあり、日本でも対物業務を減らし、対人業務を増やすことで、医師の負担軽減や地域医療の維持に貢献できると考えています。」
ーー日本の薬剤師の業務内容について、どのように見ていますか。
渡部氏「日本では、薬剤師が処方内容や用量を決める権限は限られており、世界と比べても業務内容の幅が狭いと感じています。薬剤師は6年制教育で薬物治療の知識を学んでいるにもかかわらず、その力を十分に発揮できていないと考えています。これは医療現場にとっても国にとっても大きな損失であるため、まずは薬剤師の“物を扱う業務”を減らし、患者さんへの服薬支援や医師のサポートに時間を使える環境をつくり、薬剤師の役割をさらに広げていくことが重要です。」
フィジカルAIが変える薬局業務の現場

ーー課題を解決するために、フィジカルAIをどのように活用しているのでしょうか。
渡部氏「『RIEDL Phasys(リードル・ファシス)』という箱出しロボットを開発しており、2026年3月17日に発表した『Ultra Phasys(ウルトラ・ファシス)』はそのロボットにフィジカルAIを搭載したものです。これまでは、出庫と在庫管理は自動化できていましたが、入庫は人の手が必要でした。バーコードを読み取り、ベルトコンベアに載せるところまでは人が行い、その後の整理をロボットが担う半自動の仕組みです。」
渡部氏「フィジカルAIの進化により、現在は多関節ロボットを使って入庫まで全自動化できるようになり、入庫、在庫管理、出庫まで、薬剤師の“物を扱う業務”を一貫してロボット化できます。」
ーーどのような点でAIが使われているのでしょうか。
渡部氏「入庫では、ランダムに置かれた箱をロボットが正確に見つけ、つかみ、運ぶ必要があります。決まった場所から取り出す出庫に比べ、毎回状況が変わるため難易度が高く、さらに日本では開封済みの箱を扱うことが多く、箱がゆがんだり、光が反射して文字を読み取りにくくなったりします。AIはこうした環境を学習し、使うほどに精度とスピードを高めていきます。」
渡部氏「棚のどこに何の薬を置くかは、あらかじめ決められているわけではなく、どこに置くのが効率的かをアルゴリズムで計算して算出しています。AIは、入庫の時のグリップの仕方で使われ、どこを持てば正確に運べるか、どの角度でどこを持てばうまく運べるかを学習しています。」
Ultra Phasysがもたらす薬局業務の変化

ーー「リードル・ファシス」の強みは、どのような部分にあるのでしょうか。
渡部氏「ハードウェアは海外で開発されたものですが、それを日本の薬局で使えるように調剤ロボットへAIを搭載した点が強みです。発売から2年が経ち、現在は14台が稼働しており、問い合わせも増えています。」
渡部氏「特に薬の取り間違い防止に貢献できている点が特徴です。導入先では、これまで起きていた薬の取り間違いがなくなったというデータも出ており、医療安全の面で大きな効果があり、学会発表でも多くの反響をいただきました。このようにヒューマンエラーを減らすには、人の注意力だけに頼るのではなく、そもそも人の手を介さない仕組みにすることが重要だと考えています。」
渡部氏「また、薬局での患者さんの待ち時間を大きく短縮できます。全国平均では12分ほどかかる待ち時間が、当社の薬局では3分を切る水準まで短くなっています。待ち時間が減れば、患者さんの負担が軽くなるだけでなく、医療機関を受診しやすくなります。1日200人ほど対応する薬局でのデータでは、約2.5人分の業務削減効果があり、年間で約1,675万円の経済効果が見込めました。」
ーーどのような医療機関から問い合わせが多いのでしょうか。
渡部氏「問い合わせが多いのは、地方の病院や薬局です。薬剤師は全体数としては一定数いても、都市部に偏っており、地方や離島では人材確保が非常に難しい状況があります。そうした地域では、ロボットを活用して少人数でも業務を回せる体制が必要です。将来的には、遠隔でロボットを動かすことで、薬剤師が少ない地域や離島でも調剤を支えられるようにしたいと考えています。」
薬剤師とロボットが共存する薬局の未来

ーーソリューションを通して、地域医療のあるべき姿をどのように実現したいと考えていますか。
渡部氏「薬剤師が“物を扱う業務”に多くの時間を使わないといけない仕組みは変えていく必要があります。そこはロボットに任せ、薬剤師は患者さんと向き合う業務にもっと力を注ぐべきだと考えています。医師の負担が大きい中で、薬物治療に関わる部分は薬剤師がもっと支えられるはずですので、薬剤師の役割を広げ、地域医療により貢献できる姿をつくっていきたいです。」
渡部氏「地方の病院や薬局からのお問い合わせは増えていますが、まだこうした仕組みを知らない方も多いと感じています。薬剤師不足や人手不足に悩む地域にとって、ロボットの活用は有効だと考えておりますので、ぜひ一緒に、医療現場の効率化に取り組んでいきたいです。」
ーー今後の展望につきましても、お聞かせください。
渡部氏「箱を取り出す調剤ロボットとして、ハードウェアはかなり完成に近づいています。今後はソフトウェアを継続的にアップデートしていき、フィジカルAIだけでなく生成AIも組み込み、ロボットと会話しながら操作できる形を目指しています。将来的には、薬の名前や数量を伝えるだけで、自動で払い出せるようにしたいです。」
渡部氏「また、今後は、薬をどう運ぶかも重要になり、病院内で薬を運ぶ仕組みや、離島など薬剤師が少ない地域へ薬を届ける仕組みが必要です。離島では、薬をまとめて運び、現地で安全に管理・払い出しできる仕組みも考えられます。オンライン診療と連携し、処方情報をもとに自動で薬を受け取れるような形も、将来的には実現できる可能性があると考えています。」

