日本では高齢化が進行し、フレイルが大きな課題となっています。フレイルとは、健康な状態と要介護状態の中間に位置し、適切な対策を講じることで健康寿命の延伸が期待できますが、すべての高齢者に対して均一な予防策を提供することは容易ではありません。
厚生労働省のデータによれば、65歳以上の高齢者全体におけるフレイルの有症率は、年齢とともに増加しています。具体的には、65~69歳で5.6%、70~74歳で7.2%、75~79歳で16%、80歳以上では34.9%と報告されており、高齢になるほどフレイルのリスクが高まるため、早期からの予防が不可欠です。
地方においては、公共交通の利便性が高齢者の外出頻度に影響を与えています。 国土交通省の調査では、公共交通の利便性が高い地域では、自動車免許を持たない高齢者の外出率が高い傾向が示されています。
しかし、地方部では公共交通機関の減少や廃止が進んでおり、高齢者の移動手段が制限されています。 例えば、地方都市圏における一般路線バスの輸送人員は、平成3年(約5億人)から令和元年(約4億人)にかけて約20%減少しています。
このような公共交通の縮小は、高齢者の社会参加の機会を減少させ、フレイルの進行を助長する可能性があり、実際に、公共交通の減便や廃線により移動手段が減少すると、「買い物」や「通院」に困難を感じる高齢者が多いことが報告されています。
このような課題に対し、三重県鳥羽市では電力スマートメーターを活用したフレイル予防事業を実施しています。 各家庭の電力使用データを分析し、高齢者の生活リズムの変化を検知することで、異常があれば迅速に対応する体制を整えています。 この取り組みにより、高齢者の異変を早期に察知し、解析でフレイルの可能性が高いと結果が出た対象者に訪問活動等の個別支援をすることが可能となり、フレイル予防に寄与しています。
今回、三重県鳥羽市役所健康福祉課長寿介護係 小阪氏に、電力スマートメーターを活用したフレイル予防事業の詳細、今後の展望などについて伺いました。
引用:厚生労働省 「健康長寿に向けて必要な取り組みとは?100歳まで元気、そのカギを握るのはフレイル予防だ」https://www.mhlw.go.jp/stf/houdou_kouhou/kouhou_shuppan/magazine/202111_00001.html
引用:厚生労働省 「後期高齢者の健康 -フレイル対策を中心とした 保健事業についてー
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-12600000-Seisakutoukatsukan/0000114064_12.pdf
引用:国土交通省 「全国の都市における人の動きとその変化」
https://www.mlit.go.jp/report/press/content/001707553.pdf
引用:国土交通省 「国土交通白書 2024」
https://www.mlit.go.jp/statistics/file000004/html/n1113000.html

全員に届かない支援の手、鳥羽市が直面した高齢者ケアの課題

──三重県鳥羽市のこれまでのフレイル予防の取り組みについて教えてください。
小阪「これまで高齢者へのフレイル*予防の取り組みは、国が定めた「基本チェックリスト」を75歳になられた方に記載していただく施策が中心でした。「基本チェックリスト」を対象者に送付したり、窓口に面談に来られた方に対して対応していました。その中で、『この人はフレイルだな』『生活機能の低下が見られるな』という方を見つけて、運動教室の通所型サービスなどに繋げるという形で進めていました。」
*フレイル:加齢により心身の活力が低下し、健康と要介護の中間にある虚弱な状態のこと
──フレイル予防の取り組みを行う中で、課題に感じられた部分はございましたでしょうか?
小阪「はい、この施策だけではどうしても対象者が限定的になってしまいます。75歳の方や窓口に来て相談された方に限定される。鳥羽市は地理的な特性があり、有人離島が4島あり、理想的には、地域包括支援センターの職員が1件1件ご自宅に訪問しお身体の状況を確認した上で、フレイルの方がいれば運動教室へ促し介護予防へ繋げていくことが望ましいと考えています。しかしそれを実現するためには、マンパワーやコスト、時間も非常にかかってしまいます。そこで、ICTを活用した事業で何かないだろうかと考え、中部電力様と連携し電力スマートメーターを活用したAIによる異変検知事業を進めるに至りました。」
“電力データ×AI”で健康を見守る、鳥羽市の新しい介護予防

──電力スマートメーターを使ったフレイル予防について、サービス詳細を教えてください。
小阪「現在、鳥羽市にはすべてのご家庭に電力スマートメーターの機械が設置されており、常時、30分間ごとの電力の使用量を遠隔で確認することができます。」
小阪「そして、中部電力様がその各家庭の電力スマートメーターのデータを遠隔で測ることができるので、たとえば前月の電力使用量と30分間ごとの電力使用量を比較してAIが分析していきます。元気な人の電気の使い方と、元気じゃない方の電気の使い方には違いがあるので、その違いをAIが分析します。そして1ヶ月間のデータを集積して、100点満点でスコアをつけるようになっていて、58点以上の数値が出ると『フレイルの可能性が高い』と判定される仕組みになっています。」
──電力の使用パターンから、どのようにフレイルの兆候を読み取ることができるのでしょうか?
小阪「電力使用量をチェックする項目が100個以上あり、元気な方は、例えば掃除機や電子レンジ、洗濯機を使うため、電力の最大使用量と最低使用量の差がとても大きくなります。元気でない方はあまり動かないことが多いため、電気の使い方が一定になる傾向があります。他にも外出する時間や外出の回数なども電気使用量に現れてきます。また、起床時間とか就寝時間なども関係していて、元気な方の生活は電力使用量の差にメリハリがあり、寝たきりの人は電力使用量の差が小さくなる傾向があります。令和4年の時は、5人ほど『フレイルの可能性が高い』方がいるとわかり、お家でカラオケするのが好きなどの理由で引きこもりがちになっていたことがわかりました。そのような方には、鳥羽市が直営でやっている地域包括支援センターの運動教室へお誘いしています。」
──運動教室が、介護予防の一環として機能しているのですね?
小阪「はい、介護予防は本当に大事だと考えていて、例えば、支援1の方だと、介護保険の上限は約5万円ですが、そのうち9割を市が負担すると、4万5000円ぐらいかかります。1年間通すと市の負担が5、60万円、またそれが複数人になってくると介護給付費が増えることになります。だからこそ、介護サービスを受ける前に回復し元気になってもらえれば、ご本人も元気にご自宅で過ごせますし、介護保険の給付費用も抑えられます。」
──このフレイル予防の進捗や展開状況について、教えていただけますか?
小阪「実際に『フレイルの可能性が高い』方を見つけることができ効果も実感したので本取り組みを拡大していきます。鳥羽市では日常生活圏域*が6圏域あり、1,200人以上高齢者が住んでいますが、特に1人暮らしの高齢者が多い地区が鳥羽地区でしたので、まずは鳥羽地区から始めました。そして令和6年の7月からは離島地区へ展開し、令和7年の4月から全地区へ拡大していきます。」
*日常生活圏域:高齢者が日常的に生活し、介護や福祉サービスを受けることを想定した地域単位
鳥羽市は鳥羽地区、安楽島地区、加茂地区、長岡地区、鏡浦地区、離島地区の6つの日常生活圏域がある。
引用:鳥羽市 「鳥羽市高齢者福祉計画 第9期介護保険事業計画 【令和6年度~令和8年度】」https://www.city.toba.mie.jp/material/files/group/22/koureikaigokeikakusoan.pdf
“住み慣れた町で、元気に暮らす”小阪様が描くAIを活用したフレイル予防の未来

──フレイル予防で鳥羽市としてどのようなことを目指していますか?
小阪「やはり“住み慣れた地域で、住み慣れた家で、より長く暮らしていただく”ことを目指しています。だからこそ、元気なうちは運動教室に参加していただき、それが難しくなっても、体を動かすことの大切さを感じていただいて、介護予防につなげていきたいと思っています。自分が『なんか危ないな』と思ったら相談しに行きますが、『自分はまだ危なくない』と思っていたら、そもそも相談に来られることがないんですよね。だからこそ、AIという最新技術を活用して客観的に対象者を抽出することは非常に良い仕組みだなと思います。鳥羽市では高齢化が進む中で、急病や災害時等の緊急時に適切な対応を図るため『緊急通報システムサービス事業』等も行なっており、高齢者の見守りのために様々な事業を総合的に展開しています。」
小阪「特に、AIなどの最新技術を導入していき新しいきっかけをつくっていかないといけないと感じています。これまでずっとやってきた方法だけでは、どうしても限界があり、職員のワンパワーも限られている中で、高齢者は増えていき、支援はどんどん必要になっていくなか、元気な人が増えれば私たちの負担も減っていくので、元気になるのは、市民の方にとっても、私たち行政側にとって双方にメリットになります。」
──小阪様ご自身としてはどのような思いを大切にされていますでしょうか?
小阪「私自身、住み慣れた地域で恩返ししたい地域の人のために役に立ちたいっていう思いがずっとあります。どうしたら市民の皆さんが豊かに暮らせるかって考えたときに、“安心に暮らせる”ことは大事なポイントの1つだと思います。だからこそ、AIを活用して安心を提供できるというのは大きな意味があると感じています。そして僕ら行政の職員は、地域の福祉を担う中で地方自治法に基づき、“最小の費用で最大の効果を上げる”が求められています。だからこそ、より市民の皆さんに負担がかからず、自分の住む町が少しでも住みやすい場所になるようにしたいと考えています。」
広がるスマート見守りの輪、全国の自治体も続々と導入中
──電力スマートメーターを活用したこのフレイル予防の取り組みは、他の自治体にもおすすめできると感じていらっしゃいますか?
小阪「はい、他の自治体にもおすすめできます。『自治体通信』の記事の反響も大きく、県内外問わず、かなり多くの問い合わせがありました。事業内容の説明や実績、実施に至った背景等を説明させていただいています。他の自治体でも十分にやっていける事業であると思っています。」
小阪「実際に電力スマートメーターを活用したこのフレイル予防の取り組みは、他の自治体でもどんどん導入が進んでいます。このように全国に広がっていくのは本当に嬉しいことであり、私たちが取り組んできたことが間違ってなかったと実感することができます。ただ、鳥羽市としても始めたのは令和5年の10月からなので、今後はさらに市民の皆さんに役立てるように進めていきたいと思っています。」
自治体通信ONLINE:普段の生活からAIがリスクを検知、介護予防の新たな手法に高まる期待
https://www.jt-tsushin.jp/articles/case/jt58_chuden

