全ての人が“移動の自由”のある未来の交通へ つくば市が描く「次世代スマートモビリティ」

地方では、公共交通の維持が困難になっている課題があります。路線バスやタクシー運転手の人手不足も浮き彫りになっており、運転業務における有効求人倍率が全職業平均の約2倍になり人員が求められており、人員が採用できない地域では、路線バスや地域鉄道の休廃止が進行しています。

また、乗合バスの運転者数は2019年度から2021年度にかけて約12%減少し、タクシー運転者数も約15%減少しており、コミュニティバスの減便や交通サービス低下に拍車をかけています。特に人口減少や高齢化が進む地方では、住民が自家用車に依存せざるをえない状況が多く、その中で小さな子どもを連れての移動は非常に困難になっています。複数人での短距離移動の利便性が乏しく、子どもが安全に乗れる交通手段の不足は、親子の移動制限をもたらし、地域中心部の活気が低下する要因にもつながります。同様に、高齢者や障がい者にとっては、買い物やごみの運搬といった日常の移動において荷物を運ぶ負担が大きく、簡便かつ安全な荷物運搬手段の不足が生活の不自由さを増しています。

このように、ドライバー不足による交通サービス縮小、安全かつ持続可能な交通ネットワーク構築の必要性、親子・高齢者・障がい者が直面する移動の困難さという多層的な課題が複合して、地方生活の質の低下につながっている厳しい現実があります。このような中、政府は、全国での自動運転の社会実装・事業化を推進すべく、一般道の自動運転について、2025年度には全都道府県での通年 運行の計画策定または実施を目指しています。

つくば市では、地域が直面する公共交通の課題解決に向け、先進的な取り組みを実施しています。まず、深刻なドライバー不足への対応として、既存のバス路線において自動運転バスの導入を図っています。さらに、子育て世帯の移動負担を軽減するため、「こどもMaaS」として低速自動運転モビリティを活用しています。複数人での短距離移動が安全かつ容易になり、子どもが安心して利用できる環境を整えます。加えて、高齢者や障がい者の日常生活における荷物運搬負担を減らすため、自動追従型ロボットを導入しています。買い物やごみ出しの際、人の後を自動で追従し荷物を運ぶことで、誰もが自由に移動できる暮らしを支えます。

今回、つくば市 科学技術戦略課スマートモビリティ戦略係 係長の大塚氏に、この革新的なモビリティ戦略の狙いや内容、今後の展望について伺いました。

引用:国土交通省 令和5年 地域公共交通の「リ・デザイン」
https://pficenter.furusato-ppp.jp/wp-content/uploads/2023/10/%E5%9C%B0%E5%9F%9F%E5%85%AC%E5%85%B1%E4%BA%A4%E9%80%9A%E3%81%AE%E3%83%AA%E3%83%BB%E3%83%87%E3%82%B6%E3%82%A4%E3%83%B3.pdf

引用:国土交通省 令和6年 地域公共交通政策について
https://www8.cao.go.jp/kourei/taikou-kentoukai/k_6/pdf/s2-1.pdf

引用:国土交通省 令和6年 国土交通省におけるデジタル行財政改革の取組
https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/digital_gyozaikaikaku/kaigi6/kaigi6_siryou2.pdf

つくば市 科学技術戦略課スマートモビリティ戦略係 係長 大塚氏
目次

つくば市の交通課題を解決する自動運転バス

つくばスマートモビリティチラシ より引用

自動運転循環バスは、運転手不足やバスの減便によって維持が難しくなっている地域の公共交通を守るために導入を目指している取り組みです。安全かつ持続可能な地域公共交通ネットワークをつくることを目的に、まずは「スマートモビリティエリア」でレベル4自動運転バスの実装を進めています。移動の利便性を保ちつつ、将来にわたって安定した運行が可能になることを狙っています。

ーーつくば市が抱える公共交通の課題について教えてください。

大塚「つくばの大きな課題の一つとして、公共交通の利用者が少なく、自家用車への依存度が非常に高いことがあります。具体的には自家用車の交通分担率が6割を超え、高齢者も含め多くの方が車で移動しています。既存のバスをすべて高頻度で運行することは採算的にも難しく、ラストワンマイル移動を支える小型モビリティやシェアサイクルを組み合わせ、公共交通の利便性向上に取り組んでいます。しかし、バス運転手不足も深刻で、2005年比で便数が53%まで減少しており、対応が急務です。つくば市は、人口は年々増加しており、2023年には人口増加率が全国1位となりましたが、そのような状況においても公共交通の維持確保が大きな課題です。」

ーー自動運転循環バスの取り組みについて教えてください。

大塚「現在は導入に向けた実証段階で、目標は既存の公共交通に自動運転バスを組み込むことです。自動運転バスによる観光誘客を目的とするのではなく、日常の交通手段としての自動運転バスの活用を目指します。令和5年度から、筑波大学循環バス路線に自動運転車両1台を導入し、レベル2(運転手同乗)での運行を進めています。来年中に通年運行を開始し、令和9年(2027年)にはレベル4での通年運行と運賃収受を目指しています。」

ーーこれまでの実証運行の成果や課題はありますか。

大塚「技術的な大きな課題はなく、これまで延べ500名弱に利用いただき、事故はゼロです。学生等の市民からの関心も高く、安全に走行できています。ただし、将来的な導入に向けては、事業の採算性の確保にくわえ、将来的に完全無人走行する際に運賃をどのように受け取るのかだったり、車椅子利用者の乗り降りの対応をどのように行うのかなど運用面での課題もこれから考えていかなければならないと考えています。」

ーー運転手や交通事業者の方の反応はいかがですか。

大塚「非常に良好で、現時点では順調です。今後の本格導入に向け、実際のバス事業としての運用の在り方など細部の検討を進めていきます。運転手からの具体的な意見はこれからですが、地元交通事業者も主体的に導入を進める姿勢を持っています。現場の声を反映しながら、バス事業として持続可能な運用を実現できるよう取り組んでいきます。」

習い事送迎から休日のお出かけを支える新モビリティ「こどもMaaS」

つくばスマートモビリティチラシ より引用

こどもMaaSは、小さな子どもを連れての外出や親子での短距離移動の負担を軽減するためのサービスです。低速の自動運転モビリティを使い、複数人で安全かつ容易に移動できる環境を提供します。子どもが安心して利用できる移動手段を確保することで、生活の満足度を高め、駅や商業施設、公園など中心部への回遊性を促し、地域の賑わいづくりにもつなげます。

ーー「こどもMaaS」を導入した背景について教えてください。

大塚「つくば駅周辺の歩行者と自転車が主に通る幅の広い道路をフィールドに、こどもMaaSを実証レベルで実施しています。徒歩では距離がある場所も、電動モビリティで移動しやすくし、駅を起点とした回遊性を高める狙いです。このような歩行領域のモビリティは1人乗りが中心ですが、複数人乗りやグリーンスローモビリティを活用したこどもMaaSにも取り組み、駅から図書館や科学博物館、公園などへの移動支援を進めています。」

ーー子育て世代へのニーズはどのように把握されたのですか。

大塚「利用者からも多くの声がありましたし、つくば駅周辺のまちづくりを行う会社の分析でも、子育て世代の移動サービスは必要とされていると分かりました。子どもの習い事の送迎負担軽減なども課題で、平日は習い事への移動支援、休日は一般利用者を含めた試乗機会を昨年度は提供しました。サービスの将来像を具体的にイメージできるよう、触れる機会を作ることを重視しています」

ーー実証実験の反響はいかがでしたか。

大塚「児童26名などが参加し、アンケートでは98%が『楽しかった』、90%が『安全だった』と回答しました。昨年度は実証なので、速度を低速にし、車両の前後に誘導員を配置するなど安全対策を徹底しました。今後も安全を確保しつつ、速度を少し上げることも検討し、便利で楽しいと感じてもらえるよう整えていきます」

ーー市民の反応や許容度についてはいかがでしょうか。

大塚「つくばは日本で初めてセグウェイが走ったまちで、街中には『ロボットが通ります』という看板があり、テクノロジーを身近に感じる市民が多く、市民の許容度やリテラシーは高いと感じます。ただ全員が賛同しているわけではなく、人が通る場所を車が走ることへの懸念の声もあります。市民に理解いただきながら進めることが重要です」

買い物支援からゴミ出しまで、自動追従ロボットが変える暮らし

つくばスマートモビリティチラシ より引用

自動追従ロボットは、高齢者や障がいのある方が買い物やごみ出しを行う際に感じる荷物運搬の負担を減らすための仕組みです。簡単な操作で人の後を自動で追従し、荷物を運んでくれるロボットを活用します。重い荷物を持たずに移動できるため、日常生活の自由度が高まり、誰もが安心して暮らせる地域づくりを支援します。

ーー自動追従ロボット導入の背景について教えてください。

大塚「きっかけはゴミ出しの課題です。高齢者や障がいのある方がゴミ出しに苦労しており、民生委員が支援するケースもありました。そこで、市内ベンチャーが開発した自動追従ロボットを活用し、技術で課題解決できないかと考えました。また、ランドセルの運搬支援という子ども向けサービスも実施しました。最近はデジタル端末を入れることでランドセルが重くなっており、低学年児童にとって負担が大きいため、歩行はそのままに、ランドセルだけをロボットで運ぶ取り組みです。」

ーーこれまでの実証内容とその結果はいかがでしょうか。

大塚「これまで3つのエリアで実証を行いました。1つは高齢者向けのゴミ出し支援、もう1つはランドセル運搬支援、そして買い物支援です。ゴミ出し支援はボタン1つで追従するシンプルな操作で、安全性にも大きな問題はありません。ただし1台200万円ほどするため、個人所有は難しく、地域でのシェアリング体制が必要です。ランドセル支援は有効でしたが、歩道が狭く車道に出る必要があるなどインフラ面の課題もあり、安全確保のため登校に同行するボランティアが必要など運用面の課題もありました。。」

ーー買い物支援について詳しく教えてください。

大塚「つくば市内中心部のつくば駅周辺で実施しました。ベビーカーを押しながらでも荷物をロボットに運ばせることで、車を使わず買い物できる可能性があります。マンションを拠点にすれば多くの市民が利用できると考えていますが、これも地域での共同利用の仕組み作りが課題です。」

ーー市民の反応はどうでしたか。

大塚「アンケートでは9割以上が『今後も利用したい』と回答しています。1対1での利用は便利ですが、複数人でどう共有するか、誰が運用していくのかが次の論点です。また、自動で戻る機能などの要望もありましたが、それには高額な自動運転機能が必要になります。現行機の能力で、どのように運用面を工夫できるかを今後も検討していきます。」

民間と行政の連携で持続可能なスマートシティ実現へ

ーー自治体における自動運転などの取り組みの課題について教えてください。

大塚「自動運転は交通分野の取り組みですが、私の所属は政策イノベーション部科学技術戦略課で、いわゆる企画部門です。一方で、交通政策を所管する部署は別にあり、そことの連携が不可欠です。企画部門が勝手にやっている実証と受け取られないよう、足並みを揃えて進める必要があります。つくば市ではスーパーシティ選定前から、市長をトップに各部長が参加する市の推進本部会議を設置し、全庁的にスマートシティ実現と市民課題の解決を目指してきました。」

つくばスーパーシティ型国家戦略特別区域推進本部会議:https://www.chisou.go.jp/tiiki/kokusentoc/tsukubashi_kuikikaigi.html

ーー民間との連携についてはいかがでしょうか。

大塚「民間活力を取り入れるため、大学や研究機関を含む一般社団法人つくばスマートシティ協議会を立ち上げ、現在は58社が参加しています。(令和7年5月30日現在)自動運転やこどもMaaSもこの協議会と連携して実施しています。庁内連携と民間協力の両輪で運営することが重要です。」

一般社団法人つくばスマートシティ協議会:https://tsukubasmartcity.jp/ja/

ーー財源面での課題はありますか。

大塚「現在は国の補助金や市の負担を主な収入として実証を行っていますが、補助金頼みではなく、運賃収入だけでなく新たな付加価値も創出し、収益を上げながら持続可能な事業にする必要があります。運用面の課題も含め、地に足の着いたサービスとして確立することが重要です。」

ーー他自治体や企業へのメッセージをお願いします。

大塚「自動運転は全国100近くの自治体で実証が進んでおり、成功事例や課題を共有しながら進めることが大切です。つくば市の取り組みもモデルとして活用していただきたいですし、他自治体の事例も参考にして、ともに自動運転の社会実装を目指していきたいと思います。また、つくば市は令和元年に立ち上がった『次世代モビリティ都市間ネットワーク』に参画しています。このようなネットワークを通じて、全国の自治体や企業と情報交換しながら、必要なとき、必要な場所へあらゆる移動手段を提供するつくばスマートモビリティの実現を目指していきます。」

次世代モビリティ都市間ネットワーク:https://www.city.tsukuba.lg.jp/material/files/group/3/2019NO74.pdf

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