衛星×AIで農地管理をスマート化 株式会社スペースシフトが目指す「持続可能な農業の姿」

日本の農業は今、高齢化と担い手不足という大きな課題に直面しています。この影響は農地の管理にも及び、全国的に遊休農地や耕作放棄地が拡大し続けており、地域社会に影を落としています。農林水産省の調査によれば、令和5年時点での荒廃農地面積は全国で約25.7万ヘクタール*1にも上り、これは日本の国土にとって決して無視できない数字です。

令和6年のデータでは、基幹的農業従事者の平均年齢は69.2歳に達し、依然として高い水準で推移しています。農業の現場が高齢の担い手によってかろうじて支えられている一方で、若者の参入は進まず、農業人口そのものが減少し続けているのが実情です。

こうした状況下で、各地方自治体は農地法に基づき、農地の利用状況を把握するための実態調査、いわゆる「農地パトロール」を毎年実施する責務を負っています。しかし、真夏の炎天下に現地を巡回することは、健康を脅かす大きなリスクであり、業務の継続性を危うくする要因ともなっています。人員不足と高齢化という二重の課題が、自治体の農地管理業務に重くのしかかっているのです。もはや従来の人手に頼った調査方法では限界が目前に迫っており、業務のあり方を根本から見直し、デジタル技術を活用した効率化・平準化を図ることが喫緊の課題となっています。

このような課題を解決すべく、株式会社スペースシフトは、衛星データと独自のAI技術を駆使した「遊休農地*2探索AI」サービスを展開しています。このサービスは、広域にわたる自治体全域の農地を対象とし、遊休農地の可能性が高い場所を自動で検出・可視化するものです。

具体的には、各農地の区画データを基に、AIが衛星データを解析し、その区画が遊休化している確率を10段階で色分けして地図上に表示します。

職員や農業委員は現地調査へ向かう前に、重点的に確認すべきエリアを客観的なデータに基づいて絞り込むことが可能になります。調査の優先順位付けが容易になることで、限られたリソースを効率的に配分し、調査業務全体の負担を大幅に軽減します。

今回、株式会社スペースシフトの事業開発部 糸井氏と津田谷氏に「遊休農地探索AI」の詳細を伺いました。

※1ヘクタール:10,000m2
※遊休農地:本来は農業に使われるべき土地が1年以上にわたって作物を作らずに放置されている農地

引用:農林水産省 令和5年度の荒廃農地面積
https://www.maff.go.jp/j/nousin/tikei/houkiti/attach/pdf/index-33.pdf

引用:農林水産省 農業労働力に関する統計
https://www.maff.go.jp/j/tokei/sihyo/data/08.html

引用:e-Gov 農地法
https://laws.e-gov.go.jp/law/327AC0000000229

株式会社スペースシフト 事業開発部 糸井氏

株式会社スペースシフト 事業開発部 津田谷氏
目次

農業の持続可能性を揺るがす遊休農地の拡大

ーー遊休農地に関して感じている課題を教えてください。

糸井「遊休農地や耕作放棄地の拡大は農家の減少に伴い深刻化しており、それらが増えることで雑草や病害虫、外来種の繁殖、景観悪化や不法投棄などマイナスも多く、早期特定と改善が求められています。どこが遊休農地化しているのか十分に判定されず、対策が後手に回っており、日本の農業や地域全体における構造的課題として国も地域も問題視しています。」

糸井「自治体の農業委員会が毎年調査を行っておられますが、地域全ての農地を見回るのは年々難しくなっていると感じています。そこで私たちは衛星画像とAIで農地を可視化し、優先的に見るべき場所を明確化、正確な把握と現地調査のスピードアップを支援しています。」

遊休農地探索AIサービスページより(出典:株式会社スペースシフト)

株式会社スペースシフトの遊休農地探索AIは、SAR衛星と光学衛星の2種類のデータを独自AIで解析し、天候に左右されず高精度に遊休農地を検出するサービスです。地図上に農地ごとの遊休確率を10段階で表示し、調査優先度を明確化。実証実験において、現地パトロール結果と照合して約80%の精度を確認しており、農業委員会で利用されているサポートシステムともスムーズに連携可能です。従来の紙地図の印刷や炎天下での長距離見回りを減らし、効率的な農地管理とDX推進を支援します。

衛星×AIで農地を丸ごと可視化、地域特性に合わせた高精度AI

遊休農地探索AIサービスページより(出典:株式会社スペースシフト)

ーー遊休農地探索AIについて教えてください。

糸井「遊休農地探索AIでは、主に光学衛星と白黒のSAR衛星という2種類の衛星画像を解析しています。光学衛星はGoogleマップなどでも使われ見やすいですが雲や天候、夜間に影響されます。一方、SAR衛星はレーダー電波を照射し反射を画像化するため、天候や時間に左右されず撮影可能です。農地や植物の捉え方も異なり、光学衛星は緑の鮮やかさを把握しやすく、SAR衛星は質感や形状、細かな変化を過去データと比較して捉えやすく、この2つを統合的に解析することで精度の高い結果を得ています。」

ーーAIの解析結果はどのように活用されていますか。

糸井「農林水産省の地図サービス「eMAFF」など複数の地図サービスと連携し、自治体様向けに解析結果データを提供しています。遊休農地探索AIでは10段階の遊休農地レベルを設定しており、1が良好な耕作地、10に近いほど荒れている可能性が高いことを示し、特に見回りが必要な場所を明確にします。」

遊休農地探索AIご紹介資料より引用

ーー御社ならではの強みは何でしょうか。

糸井「SAR衛星の解析技術は日本でも有数であるかと存じます。また、解析結果を既存のデジタル地図などにそのまま搭載できるデータとして提供するため、新たなシステム開発や購入・保守費用が不要で、既存システムへの適用性が高い点が特徴です。農業へのサービスに加え、災害や都市開発などへのサービスもあり、幅広い技術をご提案できます。」

AIが支える農地調査で作業量を削減

遊休農地探索AIサービスページより引用(出典:株式会社スペースシフト)

ーー自治体の調査業務にはどのような効果がありますか。

糸井「農業委員会は毎年夏から秋にかけて30人前後で見回りを行いますが、従来は数年前の航空写真などを基にルート設定していました。衛星で判別した結果を使えば、優先して見回るべき場所を絞り込み、担当分けが可能になります。ご導入いただいた自治体では業務負担の大幅削減に貢献しています。」

ーー広島県福山市への導入事例について教えてください。

糸井「福山市様では、見回りの工数削減、マニュアル作業が大幅に削減され助かっているとよく言っていただきます。特に調査のルート設計や、調査期間の短縮などで業務量が減っています。これまで地図をベースに限定的に調査していた地域でも、人が把握できなかった場所を見える化できました。他の自治体でも人手不足の組織が多いため、現場業務全体の効率化提案を合わせて行っています。」


津田谷「遊休農地探索AIを活用すれば、耕作放棄地に近い場所は高精度で判定できます。農業委員会様は解析結果がグレーな箇所を確認するだけで済み、見回り箇所の減少へ繋がり、夏の厳しい調査も負担が軽くなりモチベーション向上にもつながっています。農業委員会は5年後、10年後の地域計画を策定します。農地パトロールで得た正確なデータは関係者が現状を共有し、国が推奨する農地集約化や効率的な運用を議論する土台になります。合理的な判断に向けた素材として活用され、現状把握だけでなく未来の土地活用や農地運営の参考にもなるため、衛星データを活用することでさらに未来の農業へ貢献できればと考えています。」

ーー今後のAIの精度向上に向けた展望を教えてください。

糸井「地域ごとの地形や特性に対応する学習データを積み重ね、全国どこでも安定した精度を実現したいです。自治体と連携しながらデータを増やし、農地管理や防災にも役立つ解析技術をさらに強化していきます。」

地域から全国へ、農地の持続可能性を守る

株式会社スペースシフト HPより引用

ーー今後のビジョンを教えてください。

糸井「遊休農地や耕作放棄地の増加を防ぐことで土地利用効率の向上だけでなく、農作物や食料生産の向上、保全、防災など多方面の農地課題を解決に繋がると考えています。耕作放棄地の問題を日本全国の共通課題として認識し、代々受け継がれた農地の持続可能性を維持し、日本の美しい景観を守る未来の農業に貢献したいです。」

ーー地方自治体へのメッセージがあれば教えてください。

糸井「私たちが提供できる価値は、農地に限らず多岐にわたります。たとえば、災害時の被害状況の早期把握、環境保全や都市計画など、さまざまな分野で衛星データを活用することが可能です。自治体の皆さまが抱える課題は地域ごとに異なりますが、衛星データを活用することで、これまでにない解決策や新たな発見が生まれるはずです。地域の未来を一緒に考え、持続可能で安心できるまちづくりを支えるパートナーとして、ぜひ私たちの技術を役立てていただきたいと考えています。」

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