日本全国で空き家問題が注目を集めており、総務省の「平成30年住宅・土地統計調査」によりますと、全国の空き家総数は過去最多の848万9千戸に達し、総住宅数に占める割合は13.6%と、7戸に1戸が空き家という状況です。これらの放置された空き家は、倒壊の危険性や景観の悪化、さらには不法投棄や放火といった防犯・防災上の問題を引き起こし、地域住民の安全な暮らしを脅かす要因となっています。
国は「空家等対策の推進に関する特別措置法」を施行し、各自治体は対策に乗り出しています。しかし、最大の障壁となっているのが、空き家の所有者を特定する難しさです。相続が繰り返されるうちに所有者が不明確になったり、所有者が遠隔地に居住していたりするケースも多く、国土交通省の調査では、空き家の所有者を特定できないことが対策を進める上での課題であると、多くの自治体が回答しています。
こうした状況の中、所有者を特定できた後も、助言や指導、勧告、命令といった段階的な手続きを踏む必要があり、膨大な時間と人的資源が費やされています。実際に、特定空家等に対する 助言・指導 の累計件数は、令和4年度末時点で 37,421件 に上っており、助言・指導を含む全措置(勧告・命令・行政代執行など)を含めると 41,476件 が実施されています。これに加えて、管理不全空家等に対する除却・修繕等の取組も進んでおり、令和4年度末までに 168,198件 に達しています。現状の対策は、問題が顕在化してから対応する対症療法的なアプローチに留まらざるを得ず、増え続ける空き家を前に、多くの自治体が対応に苦慮しているのが実情です。
こうした課題に対し、マイクロベース株式会社の「MiraiE.ai(将来空き家予測AI)」サービスでは、自治体が保有する水道の開栓/閉栓や使用量、契約者情報、や住民基本台帳といった多様なデータをAIが解析し、将来的に空き家となる可能性が高い住戸を予測しています。このAIによる最大の特徴は、問題が発生する前に対策を講じる「予防的アプローチ」を可能にすることです。予測結果は地図上にマッピングして可視化されるため、職員はどの地域にリスクが集中しているかを直感的に把握できます。
これまで場当たり的にならざるを得なかった現地調査や所有者への連絡といった業務を、データに基づいて計画的かつ効率的に進めることが可能になります。職員の業務負担を大幅に軽減すると同時に、空き家化の未然防止や早期の利活用促進につなげ、安全で持続可能なまちづくりに大きく貢献することが期待されます。
今回、マイクロベース株式会社の代表取締役 仙石氏に「MiraiE.ai(将来空き家予測AI)」の詳細を伺いました。
引用:総務省 平成30年住宅・土地統計調査 特別集計
https://www.stat.go.jp/data/jyutaku/2018/tokubetsu.html
引用:国土交通省 空家等対策の推進に関する特別措置法関連情報
https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/jutakukentiku_house_tk3_000035.html
引用:国土交通省 改正空家法 施行に向けた空き家対策の現在地
https://www.mlit.go.jp/report/press/content/001632442.pdf

地方自治体を悩ませる空き家問題
ーー御社が取り組む課題について教えてください。
仙石「弊社の理念は将来の世代に負の遺産を残さないことです。インフラの老朽化、空き家問題、社会保障、環境問題など様々な課題がありますが、空き家問題に関しては、現状、市民から通報が来て初めて対処する事後対応しか手段がなく、所有者に連絡が取れないまま放置されるケースが目立ちます。法律で管理不全空家として行政指導できる仕組みはありますが、問題は解決されていません。そのため、空き家になる前から所有者とコンタクトを取ることで、その後の対応をスムーズに進められると考えています。」
仙石「特に空き家問題は、少子高齢化による人口減の影響を受けて深刻化しています。総務省の2023年10月時点の調査によると、国内の住宅総数に占める空き家の割合は過去最高の13.8%で、空き家の数も2018年から51万戸増の900万戸と過去最多となっています。また、2030年代には空き家は3戸に1戸になると推計され、建設後50年以上経過する施設の割合が加速度的に高くなっています。」
仙石「空家等対策の推進に関する特別措置法(平成26年法律第127号)の改正により、各自治体にて空き家問題の解消に向けた空き家把握を行っていますが、①空き家の所有者と連絡が取れなくなることが多い。②市民からの通報を受けてから対応するため、対策が後手に回りがち。③自治体では職員の数が限られており対応が逼迫している。といった課題が散見されているのが現状です。弊社としては、空き家対策を事後対策から事前対策へ転向することで、空き家の増加自体を抑制することができると考えています。」
ーー事前対策を進める理由や背景は何でしょうか。
仙石「子どもたちが大人になったとき、現状の対応では問題が残るとの危機感が出発点です。事後的な解決策では本質的な解決に至らず、根本からの改善が必要だと感じています。私自身、ビッグデータを活用した将来予測の研究者であり、今後大量の空き家が増えることは以前から予測可能でしたが、誰もアプローチしていないことに問題意識がありました。また、3年前、祖父が亡くなり岐阜の実家が空き家になった経験があり、早期対策の必要性を当事者として体験したことです。」

マイクロベース株式会社の「MiraiE.ai(将来空き家予測AI)」は、民間企業や自治体が所有するビッグデータをAIに学習させることにより、現在空き家となっている住居を把握するだけでなく、従来把握できなかった空き家又は空き家予備軍となる住居の各戸単位での将来なで予測することが可能です。
ビッグデータ×AI 自治体を支える次世代空き家対策ソリューション
ーー提供しているソリューションについて教えてください。
仙石「「MiraiE.ai(将来空き家予測AI)」は、将来推計人口などのデータだけでなく、住所を特定して地図で可視化することに重点を置いています。どれくらい問題が発生しているかを数字ではなくビジュアルで示すことができ、3年以内に空き家になる確率が高い住宅を色で示し、AIを使って確率的に表現します。0か1かではなく、空き家になりやすい傾向を示すことで優先順位をつけやすくします。」
仙石「将来的に空き家又は空き家予備軍となる住戸を各戸単位で予測することで、行政は効率的に空き家の実態把握や空き家予備軍世帯を特定し、事前に対応策を講じることができるようになります。例えば、空き家になる前に所有者とコンタクトを取り、空き家の流通を促進するための情報提供や支援を行うことが可能です。また、不動産会社等との官民連携によって空き家を有効活用し、地域の新陳代謝を促進する効果が期待できます。」
ーーAIの予測にはどのようなデータを活用していますか。
仙石「電気やガスの使用量などの電力会社/ガス会社のデータも活用可能です。ビッグデータから空き家になったパターンをAIに学習させ、3年後や5年後に空き家になりやすい傾向を予測し、例えばガスの使用量が減少していることから2人暮らしの高齢者が1人になったことが読み取れる場合など、統計的に空き家化や健康リスクが見える特徴があります。電力やガスのメーターの上下だけでなく、世帯人数や住民票、水道のデータ、不動産登記簿など相続状況がわかる情報も活用しており、複雑なパターンを重ねることで傾向が見やすくなります。」

研究室から社会実装へ、大学発ベンチャーが生んだ独自AI

ーー御社ならではのAIの強みについて教えてください。
仙石「現在空き家となっている家を把握するソリューションは世の中にありますが、弊社の「MiraiE.ai(将来空き家予測AI)」はAIの活用により将来的に空き家又は空き家予備軍となる住戸と各戸単位で予測することができる特許技術です。自治体や民間企業からご提供いただく住民データ(住民基本台帳、水道・ガスの使用量データ等)を分析して傾向をAIに学習させ、将来的に空き家となる確率をAIにより導くことができます。」
仙石「既存の調査員による現地調査による空き家把握は、多大な労力を要するため、費用が高く、更新頻度も5年に1回など急増する空き家に対して、迅速な対応ができませんでした。「MiraiE.ai(将来空き家予測AI)」を活用することにより、事前に現地調査すべき場所の優先順位付ができることで圧倒的なコストメリットを見出せると共に、更新頻度も高められます。」
ーー自治体への導入事例を教えてください。
仙石「令和4年度に東京都の4市、愛知県豊田市、大手ガス会社と共同で実証実験を行い、令和5年度には東京都住宅政策本部や八王子市、埼玉県深谷市に展開、令和6年度には埼玉県の8市区町村にも展開しております。導入された自治体様からは、空き家又は空き家予備軍を把握できることにより、空き家になる前の事前対策(DM送付による意識調査等)などを実施でき、空き家対策の効率化が図れたとのお声をいただいております。ただし、空き家の事前対策のあり方はまだまだ確固たるものが確立できているものではなく、PoCしながら進めている状況です。」
仙石「豊田市様には、冬場の水道管凍結事故の防止のために、空き家の把握をして事前に水道栓を閉めることで凍結を防ぐといった取り組みをしていただき、その内容を第4回Digi田甲子園*にご応募いただいて、第4位という成果を得ることもできました。第4回Digi田甲子園用に豊田市様から以下のコメントもいただきました。」
*Digi田甲子園:地方公共団体、民間企業・団体など様々な主体がデジタルの力を活用して地域課題の解決等に取り組む事例を幅広く募集し、特に優れたものを内閣総理大臣賞として表彰する取組
【豊田市様からいただいたコメント】
・5年後の空き家予測精度は⽔道使⽤量だけでは82%であったが、ガス、電気使⽤量等その他の情報を精査収集後、AI解析することで92%まで向上させた。
・予測結果を基に空き家が増加する地域を対象にセミナーを開催したところ、参加者が従来の6倍(5名→32名)になった。
・予測結果を共有した上下⽔道局では、⽔道管凍結破損時の緊急漏⽔調査に活⽤、断⽔被害の拡⼤を防⽌できた。
・予測結果を全庁的に展開し、各種計画の⽴案・改定時の基礎資料等に活⽤していく。

参考:第4回Digi田(デジでん)甲子園 結果発表|第4回Digi田(デジでん)甲子園|デジタル田園都市国家構想
先手の計画をスタンダードに、将来予測で変わるまちづくり

ーー目指しているゴールを教えてください。
仙石「実際に問題が起きないと対策しない今のあり方が根本的な問題です。将来起きる姿を疑似体験できれば、先手先手の都市計画を作ることができます。インフラ問題は出口が見えにくく、皆さん対策を後回しにしがちなため、シミュレーションや将来予測でリアルな未来を提示し、先手の計画をスタンダードにしていきたいです。生成AIなど技術が進展し、これまでできなかった課題に取り組める時代なので、私たちのような企業を活用して課題ベースで一緒に挑戦してほしいです。」
仙石「私たちは、データを通じて将来起こりうる社会を疑似体験し、事後ではなく事前に動き出せる仕組みを社会につくりだすことを目的としています。具体的には、高齢化が進み、空き家が全国的に増加していくことは想像に堅くありませんが、現状ではミクロかつ定量的に確認できるデータがありません。「MiraiE.ai(将来空き家予測AI)」により空き家又は空き家予備軍を各戸単位というミクロな視点で可視化し、将来の姿を示すことが可能となることで、空き家対策だけでなく、インフラ管理や都市デザインの観点でも有効なデータを提供し、急激な少子高齢化に伴う人口減少社会においても持続可能な都市運営を可能とする一助になることを目指しています。」
仙石「「都市経営シミュレーションゲームSimCity(シムシティ)やGoogle Earthに感化され、リアルな市長を支援するリアルなSimCityをつくりたい。」という大学生のときに感じたインスピレーションからGIS(地理情報システム)や将来予測に関する研究に取り組んできました。「マイクロベース」という社名にある通り、日々ミクロなデータ動向にアンテナを貼り続けていたところ、「空家等対策特別措置法」の浸透や、自身の祖父の家が空き家になる体験により当事者となったことをきっかけに、空き家問題の解決に向けて、これまでの経験や培った技術を総動員させて「MiraiE.ai(将来空き家予測AI)」を開発しました。「MiraiE(ミラーエ)」の由来としては、空き家(中古住宅)を未来に向けて蘇らせること、並びに、この事業を通じて出口の見えない高齢社会の突破口をつくりだし、「未来へ」向けたAIインフラとしたいという想いから命名しました。」
ーー最後に読者の方へのメッセージをお願いします。
仙石「弊社の技術を活用して、課題解決をしていくための手法を自治体様や民間企業様と一緒に考えていければと考えております。また、空き家に限らず、デジタル化されていないデータ、データ構造化できていない内容をデータ化することで、できなかったことを実現する課題解決につながることがあると思います。是非自治体様のお困りごとを一緒に解決できる取り組みをしていければと考えております。」

