地方の海水浴場では、ライフセーバーや監視員の人員不足による安全を支える監視体制の維持が年々困難になっています。
総務省の最新の人口推計によると、日本の人口は2008年をピークに減少が続いており、2025年時点ではおよそ1億2316万人となっています。これは、前年から約59万人減った計算になり、特に地方では人口の減り方が大きく、進学や就職をきっかけに若い世代が都市部へ移る流れが続いており、地域によっては人手不足が深刻になっています。
人員不足の中、海水浴場全体を人の目だけで監視することによる負担も増大しており、複数の浜や広い砂浜を有する海水浴場では、巡回や定点監視に多くの時間と労力が必要になります。崖の付近や死角など、人が直接確認しにくいエリアも多く、監視員が見に行かなければ状況を把握できないケースが少なくありません。
こうした状況は事故リスクの高まりにも直結しています。警察庁の「令和6年における水難の概況」によると、全国で発生した水難事故は1,535件、死者・行方不明者は816人に上っています。事故の多くは河川や海岸で発生しており、早期発見や初期対応の遅れが被害拡大につながるケースも指摘されています。
また、監視業務に伴う移動や巡回の工数増加は、監視員自身の安全確保にも影響します。高温下での長時間巡回や、危険箇所への接近は二次的事故のリスクを高めます。限られた人員で効率性と安全性を同時に確保することは、地方の海水浴場にとって極めて難しい課題となっています。
こうした課題に対し、静岡県下田市と県は合同で『ドローンを活用した海水浴場の安全監視』実証実験を実施しています。ドローンパイロットやライフセーバーと連携し、カメラ・スピーカーを搭載したドローンを活用することで、監視業務の省力化と安全性向上を検証しています。人の目とドローンを組み合わせることで、限られた人員でも効率的かつ安全な監視体制を構築し、地方の海水浴場が抱える課題の解決を目指しているため、今回静岡県下田市企画課山本様にお話を伺いました。
引用:総務省「人口推計(2025年)」
https://www.stat.go.jp/data/jinsui/pdf/202512.pdf
引用:警察庁「令和6年における水難の概況」
https://www.npa.go.jp/publications/statistics/safetylife/r06_suinan_gaikyou.pdf
過疎地域の下田市が直面する課題
ーー下田市でドローン活用を進めていく背景には、どのような課題があったのでしょうか。
山本「下田市は、過疎地域に指定されており、人口減少や地理的な条件より様々な課題を抱えています。静岡県と共同で進めている施策の1つとして、AIやドローンの専門人材を過疎地域に派遣して地域の課題を解決する過疎地域等政策支援員制度があり、それを活用し、最初の走り出しとしてドローンを活用した海水浴場の安全監視事業を実施しました。」
ーー海水浴場の安全監視では、人員不足も背景にあったのでしょうか。
山本「はい。下田市では、県外の大学生が夏場に安全監視を行うライフセーバーとして来てくれることが多いですが、少子化の影響もありだんだん減ってきており、継続的な人材確保が課題でした。」
ーー災害対応でのドローン活用も行っているのでしょうか。
山本「災害対応に関しては、主に孤立予定集落地域にドローンを活用しています。道が1本しかなく、そこが断絶すると孤立してしまう地域が下田市に何箇所かあります。人が見に行くと稼働や工数がかかりますし、二次災害のリスクもあるので、そうした場所にドローンを活用して、災害状況を確認しに行く取り組みを行っております。」
海水浴場から孤立集落まで現場を支えるドローン

ーードローンをどのように活用しているかについて、全体像と事業内容を教えてください。
山本「現在はドローンを3台購入しており、主に夏の海水浴場の安全監視事業と、災害が起きた際の災害状況の確認を想定した防災訓練を行なっています。海水浴場の安全監視では、ドローンの飛行ルートが決まっており、白浜大浜海水浴場を端から端まで自動飛行します。定期飛行を決めており、1日に8時、12時、14時、15時15分に飛ばしています。遊泳区域以外に出ている人がいないか、迷子がいないかなどを見ています。」
山本「実施期間中は必ずライフセーバーが配置されていて、ドローンの運用もそのライフセーバーと連携して行っています。全員がトランシーバーを持ち、常に情報を共有しており、たとえば遊泳区域の外に出てしまった人がいれば、まずドローンからスピーカーで注意を呼びかけます。さらに対応が必要な場合は、現場のライフセーバーが直接対応し、ドローンによる上空からの監視と現場での目視を組み合わせることで、より安全な体制を整えています。」
ーー災害時に備えた取り組みについても教えてください。
山本「災害時に備えてドローンを活用した消防団の訓練を2ヶ月に1回と毎年の防災訓練の時などに実際にドローンを飛ばして、孤立予想集落を含めて、災害状況の確認の訓練を行なっています。また、建設課の方では工事現場の撮影にも使ったりしています。」
海水浴場の現場負担の削減へ

ーー海水浴場での実証実験を通じて、時間削減や現場の反応など、どのような効果がありましたか。
山本「ライフセーバーの人数を減らすところまでは至っていませんが、ドローンからの音声注意だけで対応できる場面はありました。また、簡単には立ち入れない崖の奥など、これまでは行かないと見えなかった場所も、カメラとドローンを使えば確認できるようになりました。その分、現場の負担は軽くなっています。」
「さらに、上空から全体を把握できるようになったことで、白浜大浜海水浴場にある3つの監視タワーそれぞれに配置するライフセーバーの人数や配置を、より効率的に判断できるようになったという声もありました。」
ーードローンの操縦体制や、専門人材との関わりについて教えてください。
山本「市内にドローンを保有している測量会社があり、当初はそこから専門人材として来てもらっていました。実証実験の初期段階では、地元のドローンの知見がある会社、現場のライフセーバー、市外のドローンの知見がある企業、そして全体を取りまとめる企業など、複数の専門人材が関わる体制で進めていました。」
「その後、ライフセーバー自身がドローンの免許を取得し、今年は最初の5日間だけ地元企業に補助に入ってもらい、残りの12日間はライフセーバーだけで運用しました。」
ーー実証実験後の展開について教えてください。
山本「実証実験としての位置づけはすでに終わっています。2022年度は初年度で、12月と1月に1回ずつ飛ばしただけでした。2023年度は7〜9月の限られた日数で実施し、2024年度はシーズンを通して運用し、地元会社の専門人材が常にいる体制でした。」
「2025年は最初の5日間のみ支援を受けて、その後は現場だけで対応できましたので、2026年以降についてもライフセーバーと相談しながらになりますが、本格的に運用できる体制はすでに整っています。」
ドローンを過疎地域の課題解決モデルへ

ーー少ない人員でも対応できる体制として、ドローンを通じてどのような社会を実現していきたいと考えていますか。
山本「海水浴場だけには限らないんですけど、ドローンを活用することで、災害現場や海水浴場で事故が発生する前の現場に人が直接行かないで、初期の現場確認が可能となります。二次災害の防止にも繋がりますし、今後は担い手不足がさらに深刻化する地域なので、災害対応の省力化と、対応にあたる人員の安全確保がドローンで図れたらいいなと思っています。」
ーーこれからドローンを導入する自治体にとって、課題やポイントはどこにあると感じていますか。
山本「最初は静岡県からの提案に近く、専門人材の補助メニューの費用も県が持っており市の負担はほとんどありませんでした。ドローンを購入した時も国の過疎の補助金を使って、初期費用はほとんどかかっていませんでした。補助金を活用することは有効だと感じていますし、専門人材にチームへ参加してもらったことで、ドローンの知識がライフセーバーや消防団へスムーズに共有された点は、非常に重要なポイントでした。」
ーー現在感じている課題や今後の考えを教えてください。
山本「現在は静岡県主体ではなく、下田市のみで取り組みを進めている状況のため、事業の展開や予算面では難しさを感じる部分もあります。一方で、すでにドローンを導入しているからこそ、今後はその活用方法を庁内全体で検討していく必要があると考えています。また、ドローンをまだ活用していない自治体も多い中で、過疎地域ならではの課題に対して、ドローンによって解決できた点が数多くあったことは、他の自治体にもお伝えできる事例だと思います。」

