認知症予防のための音声会話AIによる支援 横須賀市の「AIと共に描く孤立しないまちの未来」

地方における高齢社会が加速する中、次のようなさまざまな課題が浮かび上がっています。まず、高齢化の進行とともに、認知症のリスクが飛躍的に高まっています。厚生労働省の資料によれば、2022年時点で高齢者における認知症有病率は12.3%、高齢者の約8人に1人が認知症と推計されています。 軽度認知障害(MCI)を含めた有病率は約27.8%、高齢者の4人に1人以上が何らかの認知機能低下を抱えているとされます。さらに2040年には認知症高齢者数が約584万人に達する見込みで、全高齢者の14.9%に相当すると予測されています。

認知症予防において重要と言われる会話や思い出を語る機会が不足している点も深刻です。特に地方では、人口流出や過疎化が進む中、高齢者同士・地域交流の場が減少し、日常的な対話の機会が失われつつあります。加えて、一人暮らし高齢者や施設入所者の増加も見逃せない要因です。一人暮らし高齢者数は高齢者人口の15.6%にのぼるとされ、地方ではなおさら家族との距離や地域つながりの希薄化が進んでいます。

また、地方では介護職員の確保・定着が困難であり、十分な人手で丁寧に会話を重ねることが難しい施設も少なくありません。過去の出来事を語る機会等、感情を整理・共有するような会話が、脳の活性化や認知症予防に効果的とされていますが、地域や施設にはそのような機会が限られています。このように対話量の減少や交流機会の欠如、孤立・孤独感の増大が、認知症予防の観点からも大きな課題となっています。

こうした課題を受けて、横須賀市では、「Cotomo(コトモ)」(音声会話型生成AI)を活用する実証実験が行われています。高齢者施設でAIと会話を通じて思い出話を引き出し、交流機会を創出することで、認知症予防と孤立防止を図るものです。今回、この「Cotomo」の詳細について横須賀市 経営企画部 デジタル・ガバメント推進室 山中氏と太田氏にお話を伺いました。

引用:厚生労働省 認知症および軽度認知障害(MCI)の高齢者数と有病率の将来推計
https://www.mhlw.go.jp/content/001279920.pdf

引用:九州大学 認知症及び軽度認知障害の有病率調査並びに将来推計に関する研究
https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/ninchisho_kankeisha/dai2/siryou9.pdf

引用:日本交通科学学会誌 高齢者孤立死の現状と背景についての検討
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jcts/15/3/15_38/_pdf/-char/ja

横須賀市 経営企画部 デジタル・ガバメント推進室 山中氏
横須賀市 経営企画部 デジタル・ガバメント推進室 太田氏
目次

高齢化が進む横須賀市が直面する“早期予防”の課題

ーー認知症予防における地方で起きている課題を教えてください。

山中「全国的に人口減少や少子高齢化が進んでおり、横須賀市も例外ではありません。特により高齢の方の増加が顕著で、85歳以上の高齢者の数は2020年から2030年の10年間で約1.5倍に増えると予測されています。この年代は認知症の発症率が高まることが知られており、85〜89歳では約35%、90歳以上では“2人に1人”が認知症を発症すると言われています。つまり、年齢が上がるほどリスクは避けられず、これから増加する高齢者層に向けて早期の認知症予防や支援体制の整備が急務だと考えています。」

山中「また、横須賀市は1990年代から人口減少が続いており、これは長年にわたる大きな地域課題として強く認識しています。人口が減る中で、住民一人ひとりの幸福度をどう確保するのか、高齢者が増えていく中で“安心して暮らし続けられるまち”にするためには、予防・介護・地域支援を一体で考える必要があり、ここが私たちが今まさに取り組むべきテーマだと感じています。」

引用:公式プレスリリース

横須賀市とStarley株式会社が連携して進めている、音声会話型生成AI「Cotomo」を活用した認知症予防サービスはAIと“おしゃべり”することで、昭和時代の話題などをきっかけに思い出を呼び起こし、高齢者の認知機能の維持や孤立感軽減を目指すものです。

音声会話型生成AIの特徴として、24時間365日、自然な会話が可能で、懐かしいニュースや昔話などをAIが引き出すことで人との会話以外にも、会話の機会を提供することができます。また、医学的な認知症予防効果については、学術機関との共同研究で検証を進める予定です。

現在、この取り組みは市内介護施設などでの実証実験の段階にあり、試験運用後、利用者や施設からのフィードバックをもとに改良を重ねる計画です。今後は横須賀市だけでなく、他の自治体や民間施設、個人でも使えるよう展開していくことが検討されています。

このように、横須賀市とStarleyによる音声会話AIサービスは、会話を通じた認知症予防や高齢者の孤立防止、そして地域福祉の新たな形に向けたチャレンジとして注目されています。

Starley株式会社 プレスリリース 1億回の返答実績を持つおしゃべりAI 「Cotomo」を開発するStarley、横須賀市と実証実験を開始:
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000009.000123714.html

音声会話型生成AI「Cotomo」で挑む認知症予防

引用:Cotomo公式サービスページ

ーー音声会話型生成Aを活用した認知症予防サービスの内容について教えてください。

山中「サービスはStarley株式会社のAIを活用して協働で開発しているもので、生成AIキャラクターとの会話を楽しむものです。利用者との会話を覚えていて、次の会話に反映したり、昔の話題を取り上げて過去の記憶を思い出してもらうことで、脳の健康維持効果の可能性があるという研究結果があり、その点を反映していることが特徴です。横須賀市は生成AIを全庁導入した自治体として先駆けだったため、生成AI関連のサービスを注視していました。音声会話サービスも当時Starley株式会社が先行しており、会話のスムーズさに特化しています。通常の音声対話AIはコストが高いのですが、「Cotomo』は独自LLMを使って低コストで運用でき、行政として活用できる感触があったため、この取り組みが進みました。」

*LLM(Large Language Model[大規模言語モデル]):大量の文章を学習して人間のように自然な言語を理解・生成する仕組み

ーー独居高齢者の状況や、会話機会の少なさが背景にあるのでしょうか。

太田「独居高齢者も多くおり、2020年から2030年に85歳以上の認知症リスクの高い人が1.5倍になることは統計で分かっており、実際に積極的にサークル活動に参加している方でも週に2、3日は誰とも喋らない状況があり、補完する意味でこのサービスを作りたいという思いで進めています。」

山中「利用シーンについては、使いやすさを重視しており、実証の際は、個別のWebブラウザを配布し、クリックすると会話が始まる形で、高齢者や施設に配っており好きな時に使ってらうという形で実施しました」

ーー産学官連携の取り組みとして、各関係者の役割を教えてください。

山中「サービスを提供しているのはStarley株式会社で、AIや開発、インターフェースを担当しています。横須賀市は実証の場を提供し、利用者に近い立場から課題感や使い勝手の感想をいただく役割です。東北大学さんは認知症予防の学術的効果のエビデンス研究をされています。」

実証実験―利用者の声で磨かれるAI会話体験

引用:Cotomo公式サービスページ

ーー現在の運用状況について教えてください。

山中「一旦、実証としてサービスを使っていただいたので、利用者の方の使い勝手や利用状況をStarley株式会社へ共有しています。現在は市民へ提供しているわけではなく、フィードバックを基に会話のスムーズさなどをブラッシュアップ中です。東北大学さんからは、思い出話の会話が対人関係にポジティブな影響を与えるという研究成果が出ており、今後は年明けあたりに、市民が広く会話体験できるよう配布していければと調整中です。」

ーー利用者からのポジティブな反響はありますか。

太田「使ってみて楽しい、AIがここまでできることへの驚きなどがありました。さらに会話の噛み合いやテンポを良くしてほしいという声もあり、改善予定です。どんなにアクティブな高齢者でも週に数日は全く会話しない状況があり、会話すると頭を使っている実感があるという声もありました。認知症の親を抱える方からも期待の声をいただいています。」

山中「一方で、デバイスが周囲の雑音を拾ってしまう点、スマートフォンやPCを持っていない人への対応が課題としてあります。引き続き実証を進め、改善を経て市民が幅広く体験できる環境を整えていきます。」

音声会話型生成AIの社会実装による自治体連携と未来像

引用:Cotomo公式サービスページ

ーー目指しているゴールや、他自治体で導入を検討する際の課題があれば教えてください。

山中「今後の展開として会話体験がブラッシュアップされていくことが必要です。自治体としては費用負担や誰に向けてサービスを届けるかなど、利用者に届くまでの設計が必要だと感じています。自治体はAIやDXツールを作っても誰も使わないケースが多く、具体的に使ってもらうサービス設計と手元に届ける設計が非常に重要です。」

太田「Webアプリケーション限定であることや周囲の雑音を拾って会話が混乱しまうなどの課題を解決したうえで、横須賀市に限らずさまざまな自治体でも使ってもらえるものにしていくことが理想です。デバイス面では、ロボティクスメーカーとの連携が必要なため、課題解決に協力いただける企業、費用面で連携できる企業と進めていければと考えています。」

ーー最後に、他自治体へのメッセージをお願いします。

山中「高齢化や介護の課題に対してAIや新技術をどう活用できるか、多くの自治体が高い関心を持っています。日本が直面する課題として緊急性も高いものですが、AIは発展途上で期待と不確実性があります。サービスに落とし込む部分では見えていないところも多いですが、課題の最前線に取り組む姿勢が重要で、挑戦する自治体が増えたら良いと思います。

太田「福祉現場では、人と人との関係性は必ず残ります。AIでできることが広がる前提で、人にしかできない業務をイメージしながら業務設計をしてほしいです。また、生成AIに100点満点を求めると、結果として使えないとなってしまうので、70〜80点の結果を前提にどう活用できるかを考える視点が大切です。」

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