災害が起きた直後の段階では、被害が広い範囲に同時に発生することが多く、自治体が被害状況をすばやく、もれなく把握することが難しい状況があります。近年は、短時間で非常に強い雨が降るケースが増えており、気象庁によると、全国で「1時間降水量80ミリ以上」の発生回数は、1976年から2024年までの統計で、10年あたり2.4回のペースで増加しています。こうした急な気象変化が起こると、被害は局地的かつ突発的に発生し、従来の情報収集方法だけでは追いつかなくなります。
多くの自治体では、災害時の情報収集を住民からの電話通報や、職員が現地に出向いて確認する方法が主要な方法となっています。しかし、総務省消防庁によると、令和4年中の119番通報件数は942万件を超え、そのうち約7割が救急や救助に関する通報であり、災害時には通報が一気に集中し、受け付けや内容整理だけでも大きな負担となります。さらに、救急車が現場に到着するまでの平均時間は約10.3分で、10年前と比べて約2分長くなっており、現地確認にも時間がかかる状況です。
その一方で、SNSには写真や動画付きで、場所が特定できる重要な被害情報が数多く投稿されます。しかし、情報が正しいかどうかを判断し、整理する作業を人の手で行うには限界があります。また、近隣自治体や広い地域の被害状況、災害の前ぶれとなる情報をまとめて把握しにくく、初動対応や応援判断が遅れる要因にもなっています。
こうした課題に対して、有効な手段となるのがSpectee Proです。AIがSNSなどから災害に関する投稿を自動で集め、画像や動画、位置情報をもとに重要な情報を分かりやすく整理・ファクトチェックするため、電話や現地確認だけに頼らない情報収集が可能になり、職員が真偽確認や仕分けにかける時間を減らせます。
今回Spectee Proを導入した愛知県豊田市地域活躍部 防災対策課 志水氏に、Spectee Proのサービス内容や効果、本サービスを通して実現するゴールなどを詳しくお聞きしました。
引用:気象庁「大雨や猛暑日など(極端現象)のこれまでの変化」
https://www.data.jma.go.jp/cpdinfo/extreme/extreme_p.html
引用:総務省消防庁「令和5年版 消防白書(119番通報件数)」
https://www.fdma.go.jp/publication/hakusho/r5/chapter2/section1/66834.html
引用:総務省消防庁「令和5年版 消防白書(救急車の現場到着時間)」
https://www.fdma.go.jp/publication/hakusho/r5/chapter2/section5/66958.html

災害現場が見えない、初動対応の課題
ーー今回Spectee Proを導入するにあたり、きっかけとなった課題についてお聞かせください。
志水「豊田市では、市域が918平方キロメートルと広大であるため、広範囲における被害状況の情報収集が課題となっておりました。特に初動対応に関しては、限られた職員での対応を求められ、電話での情報提供では現場の写真がなく被害状況が分かりにくいことや位置の特定が難しいことも課題となっておりました。」
情報収集から意思決定までを支える、Spectee Pro

ーーSpectee Proのソリューション内容について教えてください。
志水「Spectee Proは株式会社Specteeが運営するサービスで、AIを活用して世界中のSNS投稿を収集・分析し、危機の可視化を図るソリューションです。近年では、風水害時における浸水推定や河川水位予測といった独自のAI被害解析も行っており、情報収集に留まらず、リスクの可視化も行っています。また、全国自治体や政府官公庁の防災部局、様々な業界、全国報道機関で利用されており、豊田市では全国に先駆け令和元年度からSpectee Proを導入しています。」
ーー導入によって、どのような課題解決に繋がっていますか。
志水「広範囲の被害情報の収集や災害時の職員負担の軽減といった課題の解決に繋がっていると考えております。Spectee Pro導入前は、災害時の情報収集手段について電話が中心でしたが、導入によって情報収集手段が増え、これまで拾いきれなかった被害状況が見えるようになりました。また写真付き投稿により現場状況を共有できるため、災害時の意思決定における判断材料の増加にも繋がっています。」
志水「Spectee Proでは、音声読み上げ通知やスマートフォンアプリでの確認が可能となり、常に画面を見ていなくても情報把握ができるようになっています。さらにAIがSNS上の信憑性のある投稿を自動抽出し通知してくれるため、災害時の情報収集手段として非常に有効性が高いと判断しています。」
ーー実際の活用事例や業務フローについて教えてください。
志水「災害が発生して災害対策本部が設置された場合、情報収集班が立ち上がり、その担当者がSpectee Proの投稿をチェックしております。Spectee Proに投稿された被害報告の中で、その時に被害が発生している恐れがある道路被害や河川被害等については、管理職に確認のうえ、投稿者に対して豊田市へ電話で情報提供してもらう指示を送ることもあります。」
志水「令和元年の東日本台風による長野県千曲川氾濫の際には、早期に被害状況を把握し、支援物資の提供に活用しました。また、令和6年能登半島地震の際には、Spectee Proの投稿を通じて市内における災害状況を確認しました。能登半島への、職員派遣時には現地道路状況の把握にもSpectee Proを活用しました。」
ーーSpectee Proでは、事例として多い投稿内容はありますでしょうか。
志水「基本的には投稿が元となるため、その時に投稿される方がどういった反応をされるかによって内容は異なりますが、災害時には倒木の状況や道路の浸水状況に関する投稿が多くなる傾向にあります。」
平常時・災害時ともに備える防災体制

ーー災害時だけでなく、平常時はどのように活用されていますか。
志水「平常時は、豊田市で絞り込みをしたページを設定しており、読み上げ機能を使用し、音声が流れた際にパソコン画面を確認する運用をしています。また、災害が発生していない場合でも、災害時の情報収集手段を常時確保するため、本市で運用している各種防災システムに影響のある停電情報や通信障害に関する情報などを中心に注視して確認しています。」
ーー導入後の現場の反響や、継続利用されている理由について教えてください。
志水「毎日の朝礼で担当者がSpectee Proを確認し、全体共有しているため、情報収集が習慣化され、日々の危機管理意識が高まったという声を聞いております。また、携帯アプリからも確認できるため、事務室にいなくても情報収集が可能となり、時間外に発生した災害への緊急対応にも役立っています。」
志水「災害時は情報収集以外の事務も多く、電話だけでは情報収集が難しい中で、SNS投稿、特に写真付き投稿から情報を得ることで、より迅速な災害対応に繋がっていると感じており、利用を継続しています。さらに、投稿があった際には通知が届くため、常に画面を見ていなくても音声読み上げで情報を取得できる点が有効だという声もあります。」
「見える化」が支える、持続可能な防災体制

ーーこうしたソリューションを通じて、どのような防災体制や地域社会を目指していきたいとお考えでしょうか。
志水「現在、豊田市ではSpecteeの導入によって、SNSの投稿から豊田市に関する被害情報を抽出し、地図上に表示して被害状況を確認できる体制を整えています。将来的には、AIによる浸水推定機能や河川水位の提供・予測を活用し、よりきめ細やかなリスクの可視化ができる災害対応に繋げていきたいと考えております。また、市民からの情報やSNSの投稿が災害対応に繋がるため、災害への備えに対する市民への啓発にも引き続き力を入れ、市民と協働して災害に強いまちづくりを進めていきたいと考えております。」
ーー最後に、地方自治体や地域企業に向けてメッセージをお願いします。
志水「AIを活用したソリューションは、災害対応に必要な情報を素早く正確に把握することに有効であり、防災分野においても様々な活用の可能性があると考えております。他自治体や企業の取り組み事例など参考にさせていただきながら、引き続き豊田市の防災力向上に努めていきたいと考えております。」

