児童相談の現場を変えるAI音声認識 兵庫県 姫路市が進める「電話相談業務の効率化」

児童相談所に寄せられる児童虐待の相談件数は年々増加しています。こども家庭庁によると、令和5年度の相談対応件数は225,509件にのぼり、例えば平成12年度では17,725件であったことを踏まえると、この20年余りで急速に増えてきたことが分かります。

こうした相談は児童相談所に限らず、市町村においても児童虐待の対応件数は年々増えており、虐待対応は全国的な課題となっています。地方では都市部ほど人員を確保しにくい地域も多く、現場の負担が課題として指摘されています。

実際の相談対応では、職員が電話で話を聞きながらメモを取り、その内容を後から記録にまとめて関係機関と共有する作業が日常的に行われています。相談件数が増えるほど、この記録作業の負担も大きくなり、記録の遅れや書き間違いなどのミスが生じやすくなります。

一方で、児童虐待相談対応を担う児童相談所や市町村の体制整備は依然として大きな課題です。児童相談所をはじめとした行政機関では、増え続ける相談・通告件数に対して、限られた人員と従来型の業務プロセスで対応せざるを得ない状況が続いています。

こうした課題に取り組んでいるのが、兵庫県姫路市です。

虐待対応などの電話相談にAI音声認識を導入し、通話内容をリアルタイムで自動的に文字化することで、記録作成の負担を減らし、関係者への情報共有をスムーズにする取り組みを進めています。個人情報を扱う現場だからこそ、安全面のルールをしっかり整えた上で運用している点も特徴です。 導入のきっかけや工夫した点、実際に得られた効果について、姫路市デジタル戦略室の藤井氏(本務:子育て支援室)、小林氏にお話を伺いました。

引用:こども家庭庁「令和5年度 児童相談所における児童虐待相談対応件数」
https://www.cfa.go.jp/assets/contents/node/basic_page/field_ref_resources/a176de99-390e-4065-a7fb-fe569ab2450c/5fbbaa2e/20250327_policies_jidougyakutai_32.pdf


姫路市デジタル戦略室(本務:子育て支援室) 藤井氏
姫路市デジタル戦略室 小林氏
目次

児童相談の現場を圧迫する「電話記録」の課題

ーー児童相談業務においてAI音声認識を導入した背景について教えてください。

藤井「相談件数の増加や内容の複雑化に伴い、電話対応とその記録作成が大きな課題になっていました。職員としては本来、人と向き合う仕事に集中したいという思いがありますが実際には、電話を受けながらメモを取り、それを後から文字に起こして記録にまとめるという作業に多くの時間が取られ、残業につながることもありました。

藤井「児童虐待などのセンシティブな問題を扱う部署であるため、聞き取った内容をその場で記録化し、関係者とすぐに共有することが求められます。AI音声認識による文字起こしを活用すれば、タイムリーな情報共有が実現できると考え、導入を決めました」

藤井「相談は毎日次々と入ってきます。一つの相談に対して複数の機関への確認や連携が発生するため、対応件数は年間約3万5000件ほどに上ります。メモだけに頼っていると、後から『これは誰の、何の電話だったか』と思い出す手間が生じることもあります。文字起こしで記録が自動的に残ることで、そうした手間が省け、業務の整理にも役立っています」

ーー電話相談の記録における情報の正確性について、どのような課題がありましたか。

藤井「センシティブな相談が多い現場では、誰の相談内容が何だったかを取り違えることが最も深刻なミスです。一人ひとりの相談内容を確実に把握することが欠かせないため、こうしたシステムを活用することで、人為的なミスを少しでも減らせると考えています」​​​​​​​​​​​​​​​​

電話対応をリアルタイムで記録するAI音声認識

引用:自治体通信ONLINE

ーー導入したAI音声認識の内容について教えてください。

小林「今回導入したのは『AI電話音声自動記録システム』です。虐待対応や通告など、即時対応が求められる部署を中心に活用しています。電話の内容をAIがリアルタイムで文字に変換するため、従来の手書きメモや手入力による記録作業と比べて、大幅に時間を短縮できるようになりました。また、音声データもそのまま保存されるため、後から聞き返すことができ、内容の取り違えや記録漏れといったリスクも減らせています。

小林「個人情報を含む内容を扱うため、外部とつながらない閉じたネットワーク環境で稼働し、アクセスできる人を限定する仕組みも整えており、安全性を確保しながら、業務の効率化を両立できている点が大きなポイントです」

ーー電話対応時の画面表示や共有機能について教えてください。

小林「文字起こしは通話が終わってからではなく、話した瞬間からリアルタイムで表示されます。専用の画面を開くと、その場ですぐに内容を確認でき、対応している職員だけでなく、係長や課長などの管理職も同じタイミングで通話の様子を確認できる機能も備えています。」

ーー文字起こしの精度についてはいかがでしたか。

藤井「誤字脱字はある程度避けられませんが、専門用語は単語登録で対応できます。導入当初は認識率が7割弱ほどでしたが、最終的には8割程度まで向上しています。文字起こしの内容を読んで意味が分からないということはなく、実用上は十分な精度です。以前の記録を参照しながら作業も進められるため、記録作成にかかる時間は大幅に短縮されました」

実証実験から見えた効果

引用:株式会社アドバンスト・メディア プレスリリース

ーー実証実験はどのような形で実施しましたか。

藤井「実証実験は児童虐待を担当する部署で行いました。通告を受けてすぐに対応しなければならない職員を対象に導入し、最初は自分の声がそのまま文字になることへの戸惑いもありましたが、使っていくうちに『やり取りがきちんと残る』という安心感の方が大きくなっていきました。通話が終わった時点で文字起こしも完了でき、対応が必要な場合には担当職員間への情報共有もスムーズに行えています」​​​​​​​​​​​​​​​​

ーー現場での評価ポイントを教えてください。

藤井「リアルタイムで記録が残るため、メモを取る必要がなくなった点が特に好評です。職員は通話中にメモを取ることへの意識から解放され、相談の内容をしっかり理解することや、聞き漏れがないかに集中できるようになりました。また、新任職員にとっては、自分の対応がそのまま文字として残るため、『この返し方でよかったか』『次はこう対応しよう』といった振り返りにも活用でき、OJTとしても役立っています」

藤井「また、令和6年度の4月から7月は、記録作成を目的とした残業が全員で138時間でしたが、令和7年度の同じ期間は80時間まで減少しました。記録作成にかかる残業時間を約40%削減できており、職員のワークライフバランスの向上にもつながっていると感じています。」

ーー相談の質や対応スピードへの影響についてはいかがでしょうか。

藤井「1件あたりの対応スピードを大幅に改善でき、メモを取ることに意識を向けていた分を、相談の内容そのものに集中できるようになった点は大きな変化だと感じています。今後、相談対応の質自体もかなり上がっていくのではないかと期待しています。」​​​​​​​​​​​​​​​​

小さな一歩から始める市民の安心につながるAI活用

引用:姫路市 ホームページ

ーー今回の取り組みを通じて、最終的に目指しているゴールを教えてください。

藤井「今回は現場側からデジタル部門に『こういうシステムを使えないか』と提案し、実現しました。福祉の現場では新しい技術に慎重な空気もありますが、デジタル活用は特別なことではないと思っています。私たちの本来の仕事は、人と人との支援ですので、その時間を確保するためにも、デジタル技術をうまく使っていかなければ、目指す支援はできません。相談支援に携わる職員が減り続けている今、その大切さをより多くの人に伝えていきたいと思っています」

藤井「ただ、電話相談を受ける窓口はどの自治体にも多くありますが、財政的な問題は避けられません。実際にシステムを導入するとなると、使える財源はかなり限られるため、補助金をどう組み合わせるかが重要なポイントであり、年度ごとに活用できる制度も変わるため、デジタル部門と連携しながら常に情報収集を行うことが大切です」

ーー地方自治体の職員や関係者へのメッセージをお願いします。

小林「システム導入となると、デジタル部門と現場が連携しなければならず、ハードルが高いと感じる方もいるかもしれません。ただ、DXやAIの活用は特別なものではなく、現場の課題を解消し、市民へのサービスの質を高めるためのツールです。大切なのは、導入して終わりではなく、業務の流れの中にシステムをしっかり組み込むことだと感じています。導入までは大変でも、その先には市民の安心につながる変化があるはずなので、まずは小さな一歩から始めることが重要だと考えています。」

藤井「気になることがあれば、ぜひ気軽にお問い合わせいただければと思います。問い合わせいただいた際のやりとりを実際に文字起こしし、参考としてメールでお送りしたこともあります。どんな仕上がりになるのか、具体的なイメージを持っていただくことが第一歩だと思います。ハードルを高く考えず、まず一歩から、市民のためになる取り組みであれば、私たちも喜んでご協力します。」

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