テクノロジーの力で実現する新しい防災対策 鳥取県の「住民を守る、ため池監視システム」

近年、気候変動による局地的豪雨が発生しており、農業用ため池の決壊リスクが上がっています。農林水産省の資料では、決壊等により周辺区域に被害を及ぼすおそれがある防災重点農業用ため池は全国で約5万3,000か所にのぼっており、その多くが老朽化や管理体制の課題を抱えていると報告されています

特に地方ではため池の管理者が高齢化し、現地巡回や点検作業が難しくなってきています。農林水産省も、40都道府県にため池サポートセンターを設置し、巡回や助言支援などによって決壊リスクの低減に取り組んでいると報告していますが、人的資源や技術面の限界も指摘されています。

加えて、防災情報の共有体制にも課題が残っており、インターネットを活用した災害情報の伝達は進んでいるものの、農業用ため池に関する具体的情報が地域住民に十分伝わっていないケースが多数あるとしています。このような状態では、豪雨時の早期避難判断を実現できず、人的被害や財産被害を招く恐れが高くなっています。

さらに、人的・物的リソースの不足は、地方自治体にとって課題の1つであり、災害時における人材や物資が不足する中、災害対応効率化や高度化が不可欠であると指摘されています。これらを踏まえると、局地的豪雨の頻発化、大量のため池、体制の老朽化、情報不足、人的リソース不足など、多面的な課題が地方における農業用ため池管理に立ちはだかっている状況です。

鳥取県ではこれらの課題を踏まえ、「ため池監視システム」を導入しました。各ため池に水位センサーと監視カメラを設置し、クラウドでデータを一元管理しています。豪雨時の水位変動をリアルタイムに把握し、危険兆候を即時に検知でき、遠隔監視により現地巡回の頻度が大幅に削減され、人手不足と作業負担を軽減します。さらに、Web上で管理者、市町村、住民が情報を共有できるため、迅速かつ的確な避難判断を支援し、地域ぐるみの防災ネットワーク構築に貢献しています。

引用:農林水産省 防災・減災・国土強靭化
https://www.maff.go.jp/j/council/seisaku/nousin/bukai/R0603/attach/pdf/siryou-22.pdf

引用:農林水産省 令和6年 農業用ため池を巡る状況
https://www.maff.go.jp/j/nousin/bousai/bousai_saigai/b_tameike/attach/pdf/hozenhou-44.pdf

引用:農林水産省 農業用ため池
https://www.maff.go.jp/j/nousin/bousai/bousai_saigai/b_tameike

鳥取県 農林水産部 村田氏
目次

大雨とともに高まるリスク、ため池管理の課題と監視システムの必要性

鳥取県 公式HPより引用

ーー最初に、鳥取県でため池監視システムを導入された背景について教えてください。

村田「ため池は昔からある農業用の施設で、地域によっては家のすぐそばにあったりします。ため池は関係者の皆さんが組合を作り、管理されてきました。昨今は、異常気象のニュースが頻繁にあり、10年に1度くらいの確率で降るとされる大雨は、毎年降っているような感覚になってきています。そのような中大雨が降ると、ため池が決壊するリスクが高まるため、ため池管理者や地域住民の方にいかに早く危険を察知してもらうかが課題でした。ただ、ため池の状態を把握しようとすると、現地に直接行って目視で確認するしかありません。それにはリスクを伴います。大雨や台風の日に現地を見に行き、そのまま用水路等に流されたり、災害に巻き込まれる痛ましい事故が、全国で発生しています。そこで、現地に行かなくてもため池の状況を把握できるため池監視システムを導入しました。」

村田「また、もう一つの理由としては、情報の不足があります。例えばテレビなどの気象情報では、大雨警報等が出れば河川の氾濫危険情報は頻繁に流れますが、ため池についての情報は全くと言っていいほどありません。仮に家の近所の上流にため池があったとしても、自分で見に行かない限り、その危険性を知ることはできません。テレビなどの情報に頼っていても、身近な危険を察知するのは難しいのが現実です。だからこそ、誰でもいつでもため池の状況を見られるようなシステムを整えれば、より安全に情報を取得できるのではないかと考えました。」

現地に行かずに確認できる、鳥取県のため池監視ソリューションとは

鳥取県 公式HPより引用

ーー鳥取県が導入しているため池監視システムの具体的な内容について教えてください。

村田「ため池監視システムに関して、各ため池にはカメラと水位センサーが設置されていて、そのデータがクラウド上のサーバーに集約され、ホームページから誰でも・いつでも閲覧できるようになっています。カメラの映像が確認できるだけでなく、水位の変動をおよそ5分間隔で監視できる仕組みです。」

鳥取県ため池監視システム 概要ページ:https://www.pref.tottori.lg.jp/310430.htm

鳥取県 公式HPより引用
鳥取県 公式HPより引用
鳥取県 公式HPより引用

ーー具体的に、ホームページではどのような情報が見られるのですか?

村田「ホームページでは、各所に設置されているカメラの位置が地図上にプロットされています。そこをクリックすると、現在のため池の様子が表示されます。ため池のカメラは、基本的には半日に1回、例えばお昼の12時と夜の0時に自動で写真を撮るようになっていますが、時間や撮影回数は任意に設定できます。異常気象時には、パソコン上から手動での撮影も可能です。また、水位変動についてはグラフで視覚的に確認できるようになっていて、赤い線が『ここまで来たら危険』という基準を示しています。青い線が今の水位で、これが赤い線より下にあれば危険は少ないという状況が一目でわかります。さらに、上昇水位や水位の一覧表示もあり、必要な情報を詳細に確認できるようになっています。」

ーー危険察知の仕組みについても教えてください。

村田「ため池一覧のページを見ていただくと、各ため池の現在の水位が数値で確認できます。特に重要なのは、水位の上昇スピードです。ゆっくり水位が上がる分には大きな問題はありませんが、たとえ危険水位に達していなくても、上昇率が異常と判断された場合には警報が出る仕組みになっています。

つまり、最大水位に加え、水位の上がり方でも危険度を判断できるようになっているのが、このシステムの大きな特徴です。そのため、住民の方が現地に行かずとも危険を早期に察知し、避難の判断に使っていただけるようになっています。」

ーーため池監視システムは現在ではどのように活用されているのでしょうか?

村田「このシステムは県だけでなく市町村の方も同じ画面が見られるようになっており、関係機関全体で情報を共有できる体制になっています。一度設定を行えば、基本的にはすべて自動で記録されますが、必要に応じて手動での対応も可能であり、大雨時など状況を逐次確認したい場合は、管理者のパソコンで手動でシャッターを切り、その時のため池の状態を撮影することができます。また、異常が発生した場合にはアラートが表示される仕様になっています。」

導入後の変化とは?ため池監視システムによる安心と負担軽減

鳥取県 公式HPより引用

ーーため池監視システムの運用面について、具体的に教えていただけますか?

村田「カメラのシステムは電池式で動いているので停電の影響なしで、常に情報を取得できるようになっています。大雨の警報などが出た場合は、ため池の管理者だけでなく、市町村の防災担当者も確認できますし、県の防災担当者も同じ画面を見ることができます。もし危険が予測されるような事象が映像やデータから見受けられた場合には、県から市町村の担当者へすぐに連絡を取りますし、市町村の方もため池管理者と連絡を取れる体制となっており、情報をすばやく共有でき住民避難にも活用できるものです。この監視システムは、そういった一連の防災対策の基盤として運用されています。」

ーー実際に「ため池監視システム」を導入したことで、現場からはどのような反響がありましたか?

村田「担当者の方から話を聞いていますが、やはり一番大きいのは、パソコンの画面ですぐにため池の状況が見られるようになったことです。これが労力の軽減にも繋がっていますし、これまでなら役場や市役所の職員さん、ため池管理者さんが直接現地まで確認しに行く必要がありましたが、その必要がなくなり、とても助かっているという声をいただいています。」

ーー市町村や管理者との連携はどのように取られているのでしょうか?

村田「各市町村は、下流に人家や公共施設がある貯水量が一定以上の防災重点農業用ため池についてはため池管理者の連絡先を把握しており、危険な状態に気づいた場合は、管理者と連絡を取り合い、避難行動に繋げることができる体制を整えています。」

ーー今後の運用や整備の予定について教えてください。

村田「今の時点で設置要望の8割近く整備が完了している状況ですので、市町村が必要と思われるため池には、ほぼ整備できたかなと感じています。ただ、防災重点農業用ため池は県内に約300箇所あります。現時点で74箇所にカメラを設置しましたが全体の3分の1程度です。すべての市町村がまだ導入しているわけではなく、まだ未整備のところもあります。今後は、そういった地域にもPRを行い、さらに設置を広げていきたいと考えています。」

導入から普及へ、新たな住民を守る防災モデル

鳥取県 公式HPより引用

ーーため池監視システムを自治体へ導入するにあたって、課題も多かったと思いますが、具体的にはどのような点が大変だったのでしょうか?

村田「最初から順調に導入が進んだわけではなく、1番のネックは費用の問題でした。設置時には補助制度がありますが、実際に運用を始めると通信料などのランニングコストが発生します。当初は、ため池の受益者の方にも地元負担という形で協力をお願いしようと考えていました。カメラの必要性はよく理解はされていても、毎年自己負担が発生するとなると躊躇される方も多く、導入が進みませんでした。」

ーーその課題は、どのように解決されたのでしょうか?

村田「当時の県の担当者が、地域防災の観点からなんとか地元負担をなくせないかと色々と調整し、県独自の補助制度をつくりました。その制度を使うことでランニングコストは地元負担なし(県と市町村が負担)で導入できるようになり、設置への要望が増え、3年で74箇所設置が進みました。

また、令和6年度から国の補助も始まり、財政の面でも地方自治体の負担軽減になってきています。」

ーーランニングコスト削減の工夫についても教えてください。

村田「普通の河川カメラや道路のカメラのように、リアルタイムで映像を常時送ると通信料がかなりかかってしまいます。そこで、ため池の監視ではそこまでリアルタイムの映像は必要ないという判断をしました。ですので、画像は1日に1枚、ないし2枚に抑えています。その分、水位のデータについては5分間隔でしっかり取得するようにして、映像の通信量を減らすことでランニングコストを大幅に抑えることができています。実際、導入当初に心配されたコスト面の課題も、そういった工夫で乗り越えてきたという経緯があります。」

ーー最後に、読者の皆さんへメッセージをお願いします。

村田「鳥取県では、ため池管理者さんや地域住民の皆さんが行っているため池の保全管理や監視体制の確保を支援する取り組みを進めています。その一環として、ため池監視カメラのシステムも導入しています。

ため池の決壊は、あってはならないことですが、万が一そういった事態が起きた場合でも、『避難できてよかった』と言えるような、犠牲者を出さない体制づくりを目指しています。そのためには、危険をいかに早く察知し、避難行動につなげるかが非常に重要です。この監視カメラのシステムは、そういった場面でかなり役に立つツールだと考えています。また、この取り組みが広がることで、災害で犠牲になる人が一人でも少なくなることを願っています。」

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